隠れ森のニジイロトカゲ
第5話 約束のシッポ
その虹を見ながら、クリスタルバニーは言いました。
「やっぱりあなたは優しいのね。」
「いままで私の周りの人たちは、誰もがみんな、自分の思い通りにしようとする人ばかりだった。」
「それなのにあなただけは、私に無理を言わない。」
「それにしてもきれい。わたし、この虹のこといつまでも忘れないわ。」
「うん。さあ、もう行かなきゃ…ね。」
「キミが帰るのを待ってる人たちがいるよ。」
そう言ってミゾーが森の奥へと続く道を指差すと、森の奥は輝いて、光の街へと繋がる扉の開く音が聞こえました。
でも、そう優しく言われると、クリスタルバニーは直ぐに帰ってしまうことが、何だか心苦しく思えました。
「わたしたち、ずっと以前…。ううん、生まれ変わるもっと以前に、もしかすると出会っていたのかなぁ?」
「そしてまた生まれ変わったら、もう一度、こうして出会えるかなぁ?」
そしてクリスタルバニーは、ほんの少しだけですが、消えた記憶の忘れ物が、どこからか沸き出したようにそう呟いたのでした。
グラバールからまだ再生のことを、何も聞いていないミゾーには、そう言われても何も分かりません。
「さあ、ボクよく分からないよ。でもキミにまた、会えると嬉しいな。」
「そうしたらもっともっと沢山、キミと遊ぶんだ。」
「そうだね。じゃあわたし、生まれ変わったら、またここにやって来るわ。」
「必ずやって来るから。」
「そしたら、今度はもっと沢山お話しをして、もっと沢山お遊びして、そして…」
「そうだわ!」
「そのあと、ふたりで一緒に光の街へ帰ろうよ。ね、約束だよ。」
そう言ってふたりは、約束の品として、お互いの“シッポ”を切り取って交換したのでした。
そして、そんな話しをするうちにクリスタルバニーは、やはり記憶の忘れ物を、無意識の中で少しづつ思い出しているようでした。でももう時間がありません。
光の街へと繋がる扉は、そう長くは開いたままでは居られないのです。
もしこの機会を逃してしまうと、ミゾーが次の記憶を無くした光の街の者に出会うまでは、扉を開けることが出来ないのです。
ミゾーは言いました。
「さあ、急いで。もうすぐすると扉が閉じてしまうよ。」
「うん。ありがとう。」
「それじゃ、またね。」
そう言うとクリスタルバニーは、まだ輝いている森の奥へと駆けって行ったのでした。
「うん。それじゃ、また…ね。」
残されたミゾーは、森の奥へと消えたクリスタルバニーを思い浮かべて、手に持っていたシッポに、そうポツンと呟きました。
作品名:隠れ森のニジイロトカゲ 作家名:天野久遠