隠れ森のニジイロトカゲ
第4話 運命に導かれ
本来なら、こうして忘れられた光の街の者の記憶は、マッドタスクが思い出させるという役割なのですが、稀にこうしたとこが起きるのです。
それはニジイロトカゲが光の街へと帰るまで、あと百数十年、或いは数十年だという、知らせのようなものだったのです。
ニジイロトカゲが生まれ変わるための、下界での寿命とでも言うのでしょうか。
そのことを告げる相手に、前のニジイロトカゲが選んだ相手、それがクリスタルバニーなのでした。
でもミゾーはそのことを知りません。
いえ、本当なら、今頃にはもう現れていたはずのグラパールが、今回はそのことをミゾーに教えるはずだったのです。
しかしそんな大切なお話しをしてくれるはずのグラパールは、何故かいまも現れていないのでした。
隠れ森に迷い込んでしまったクリスタルバニー。実は彼女も、そうした運命に導かれて、この森にやって来たのでした。
けれど記憶を取り戻したクリスタルバニーですら、まだそのことには気付いていない様子です。
それどころか、記憶の戻ったクリスタルバニーは、自らの使命と役割を果たすために、もう光の街へ帰らなくてはなりません。
いづれにしても、グラパールさえ来てくれていたなら…。
こんなふたりの運命を、お互いに知らない同士でも、やはり心に何かが引っ掛かるのでしょうか。
ミゾーが言いました。
「キミがいなくなると、ボクはまたひとりぼっちだよ。」
「もう少し、もう少しだけ…、一緒に遊びたいなぁ。」
それを聞いてクリスタルバニーが答えます。
「私も同じだよ。」
「もう少し、もう少しだけ…、こうしていればもうひとつ、何か大切なことを思い出しそうな気がするの。」
「でも、私はもう、自分の使命と役割を思い出してしまったわ。」
「だからきっと、もうそれ以上に大切なことってないかも知れない。やっぱり…、行かなくちゃ。」
「そうだよね。」
「キミには光の街でやらなくちゃいけない、大切なことが待ってるもんね。」
「ごめんね。」
ミゾーは寂しそうにそう言うと、いままで握っていたクリスタルバニーの手を、ゆっくりと離しました。
するとどうでしょう。
それまで虹色に輝いていたミゾーの体から、空に向かって大きな虹が、それも真直ぐに伸びて行ったのでした。
作品名:隠れ森のニジイロトカゲ 作家名:天野久遠