隠れ森のニジイロトカゲ
第2話 誰か知らない?
ミゾーはまだ良く知りませんが、彼が生まれて気がついた時には、もうこの隠れ森に住んでいました。
どうやら光の街の者というのは、下界で学んだ後に再び光の街へと戻って、転生を繰り返すらしいのです。
そんなことでミゾーも、彼の前にこの森の番人をしていたニジイロトカゲが、生まれ変わって来たもののようでした。
ただニジイロトカゲというのは、他の光の街の者とは違って、光の街で生まれ変わっても直接下界に姿を現わします。
ですから光の街のことは、ニジイロトカゲが再び生まれ変わる前に、一度だけ見たり知ったりしただけでなのです。
しかしそんな記憶も、既には生まれ変わってしまったニジイロトカゲの中からは、すっかり消えているのです。
こうした光の街の者の知識は、何十年に1度この森にやってくる、金色のフクロウから教わります。
そうです、そのフクロウも光の街の者なのです。
金色のフクロウの名前はグラパール。
グラパールは、光の街の者の中でも唯一、いつでも自由に光の街と下界を行き来できるという、特別な能力を持っています。
普段のグラパールは、どこにでもいるような何の変哲もないフクロウですが、特別な役割をもつ光の街の者の前に来ると、グラパールの体は金色に輝くのです。
金色のフクロウの役目は、自分と同じように特別な役割をもって、直接下界へ生まれ変わって行った光の街の者たちに、“光の街”と“光の街の者”についての知識を、たくさん与えることでした。
そしてそんな金色のフクロウのグラパールは、隠れ森にひとりでいるミゾーが、たとえ何十年に1度でも、決まってお話ができる相手なのでした。
だからミゾーは、グラパールがやって来るのをとても楽しみに待っていました。
ところが、とっくにやって来ていてもおかしくないフクロウなのに、もう何年待ってもやって来ないのです。
ミゾーは寂しさがつのるばかりでした。
この森の中は話したように、虫や木々たち以外は住んでいません。
唯一の例外である泥沼のマッドタスクを除いては…
そんなニジイロトカゲが思いを伝える手段としては、自分の体を輝かせて、大きな虹の橋を掛けることだけでした。
そしてその思いに気付いてくれた時は、遠くにある街か村の方角が輝くのです。
しかし何度ミゾーが虹の橋を掛けてみても、どの方角の空も一向に輝くことはありません。
ミゾーは寂しくて、毎日森の中を歩いては出会った虫や草花に尋ねます。
「ねぇ、誰か知らない?」
「いつも決まってこの森にやって来るフクロウさん。」
「金色に輝くフクロウさんなんだけど…」
しかし喋ることが出来ない、普通の虫や草花では答える術などありません。
ミゾーの声はただ、森の中を小さく木霊するだけでした。
そんなことは分かっていても、ミゾーはやはり尋ねてしまうのです。
「ねぇ……、誰か…知らない?」
作品名:隠れ森のニジイロトカゲ 作家名:天野久遠