隠れ森のニジイロトカゲ
第1話 ニジイロトカゲのミゾー
みんなが世界と呼ぶこの下界には、東にビースという街、西にフィシという街、南にアニマという街、そして北にヒューンという街があります。
そしてこの大きな4つの街以外にも、これらの街をつなぐようにして小さな村がたくさんあるのです。
このような下界の町や村には、光の街というところから、下界のことを学ぶためにやって来た者たちも、たくさん暮らしていました。
しかし光の街の者は、いづれは自分の使命を果たすため、光の街へ帰らなくてはなりません。
ここはどの街からも遠く離れた森。
だからこの森では、下界にはいっさい影響されずに、変わらない毎日が続いています。
街や村では、もしこの森を訪れるものがいたら、二度とは出ては来れないと恐れられていました。
それでも中には、興味半分や恐い者見たさの大人たちが、突然やって来ることがあります。
そんな時には、この森の木や草花たちが、光も稀にしか届かない森の奥深くへと誘うのです。
するとこの森に住む虫や木々たちすら恐れる、人喰いトラが住むという泥沼に必ず辿り着くのです。
そうなってしまうと、もうこの森から出られる者といえば、光の街の者以外はおりません。
そう。この森は唯一、光の街へと戻ることができる、光の扉がある場所だったのです。
そのようなことを知らない下界のものたちは、この森のことを“隠れ森”と呼んでいました。
そしてこの隠れ森で、光の扉の番人をしている者がいます。
それは光の街の者の中でも唯ひとり、人喰いトラに宿ることが出来る、ニジイロトカゲという者でした。
そんなわけでニジイロトカゲは、もう何百年、いいえ何千年も、人もいないこの森で暮らしていたのです。
そのニジイロトカゲの名前はミゾー。
でもミゾーは寂しくていけませんでした。
ミゾーがこれまで生きてきた中で、幾千、万人の光の街の者たちを導きました。
でもミゾーは、ただそうした者たちの記憶を呼び戻しては、光の扉から送り戻すばかり。
そして多くの森に迷った人や獣たちにも出会いました。
でもそんな時ミゾーは、この森の秘密を守るため、陶器の人喰いトラに宿っては、泥沼へと引きずり込んで殺してしまうだけ。
結局いつもこうして残るのは、自分一人だけだったのです。
お話しをしたくても相手もいない、遊びたくても一緒に遊ぶ者もいない。
そんな寂しい毎日だったのです。
作品名:隠れ森のニジイロトカゲ 作家名:天野久遠