隠れ森のニジイロトカゲ
第7話 金色の鬣を持つライオン
それから更に数十年後のことでした。
もう随分と長く、誰も訪れることのなかったこの隠れ森に、迷い込んで来た者がいました。
もしそれが光の街の者以外の者であれば、いくらひとりぼっちで寂しくても、ミゾーはその者を、有無もなく殺してしまわなくてはなりません。
でももし、それが光の街の者だったら、ミゾーは何十年ぶりに光の街への扉を開けて、その者を送り返さなければならない。というわけで、いづれにしてもミゾーは、やはりひとりぼっちのままなのです。
それでもミゾーは、その者の前に姿を現わすと、「ねぇ、遊ぼう」と言って、その迷い人を隠れ森の奥深くへと連れて行ったのでした。
そして二人が恐れ沼の側まで来たときです。それまで迷い人の側に居たミゾーの姿が、「ふっ」と消えたかと思うと、沼の中からは、人喰いドラのマッドタスクが現れたのでした。
迷い人はそれを見て大変に驚くと、その場に尻もちを着き、震えながら後ずさりしましたが、沼から飛び出したマッドタスクは、既に迷い人の頭上で足を広げて笑っていたのでした。
「もうお前はどこにも逃げられやしないぜ。」
「潔くオレ様に喰われちまうんだな、グァハハハ。」
マッドタスクがそう言って、迷い人の頭に噛み付こうとした時でした。
突然マッドタスクの陶器の体が輝いて、金色の陶磁器へと変わるとその姿は消えてしまい、代わって迷い人の前には再び、ニジイロトカゲのミゾーが姿を現わしたのでした。
そうです。この迷い人は光の街の者だったのです。そしてその迷い人、ライオンのシシオは先ほど、マッドタスクのキバが頭に触れた瞬間から、立派になった鬣が金色に輝いています。
「私の記憶も甦ったらしいな、どうやら間に合ったようだ。」
「キミがニジイロトカゲのミゾーだね。」
金色の鬣を持つライオンのシシオは、そう言いながら立ち上がると、ミゾーの両手を握って話しを続けようとすると、ミゾーの体が輝きはじめると同時に、森の奥も輝いて「ガガガガッ」と光の街への扉の開く音が聞こえて来ました。
シシオはたくさんの傷を負っていたようで、話している間も苦しそうな顔をしています。
「いま光の街では大変なことが起きているんたよ。」
「キミはこちらの世界にいて知らないだろうが、随分前に黒豹のダークネスが光の街を捨てて、この世界へとやって来たんだよ。」
「いったい何のことを言ってるの?」
ミゾーにはシシオの言った話しが理解できず、困った顔でそう訪ねると、シシオは傷を庇いながらも、数百年も前からこの下界で起きていることを、詳しく説明したのでした。
それは、あのグラバールが来なくなった頃からの話しで、その話しによると、どうやらダークネスという黒豹が、光の街を勝手に飛び出して下界に下り、下界に転生していた光の街の者たちを捕まえては、食べてしまっているということです。
作品名:隠れ森のニジイロトカゲ 作家名:天野久遠