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記憶の欠片

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砂由、僕を見て。

その瞳に僕を映して。

君に触れられないのなら、見つめることだけでもどうか許して。



「勝哉!」

「・・・・・マサ。大きな声出すなよ。」

「悪い。お前、いつもぼーっとしてるから、
 今日は最初からバシッと行こうと思ってさ。」

「そんなにぼーっとしてないだろ。」

「してる。」

「そう?」



自覚はなかった。

でも、最近どうも思考がふわふわと不安定な気がする。

しっかり寝てるはずなのに、疲れでも溜まっているのだろうか。



「で?報告あるんだろ。」

「おう!おかげさまで上手くいった。」

「そうか。良かったな。」



嬉しそうに笑う正幸に釣られて笑ってしまった。

まるで正幸の幸せが、僕にまで伝染しているかのようだった。



「亜耶も、お前に感謝してるって言ってたぞ。」

「じゃあ、二人に何か奢ってもらおうかな。」

「お安いご用だ。」



正幸のこの喜びようには訳がある。

ずっと片思いしていた亜耶という女の子と、晴れて恋人になれたのだ。

僕は亜耶ちゃんとも知り合いで、僕を通じて二人は知り合った。

正幸はずっと片思いだと思っていたみたいだけど、

僕から見れば、二人は間違いなく両想いで、

間にいた僕は2人から同時に恋愛相談を受け、2人の仲を取り持った。



「幸せそうでちょっとムカツクな。」

「何とでも言ってくれ。今なら俺は何を言われても傷つかないぞ。」



素直に羨ましかった。

堂々と好きな子のことを好きだと言える正幸が。

僕は、言えないから。



「で、モノは相談なんだけど、女の子とメールしねぇ?」

「しないよ。」

「ノリが悪いぞ、勝哉。」



不満そうにする正幸に苦笑を向ける。

だって、意味が無いじゃないか。

僕は、砂由以上に誰かを好きになることなんてきっと無いのに。



「他に飢えてる奴は一杯居るんだから、そいつらに回してやれって。」

「そういう飢えた奴の隣に立たせたくない子なんだってさ。」



亜耶ちゃんの友達なんだろう。

でも、それなら尚更僕がその子の相手をするわけにはいかない。

飢えてるのは他でもない僕だから。

砂由相手に、妹相手に飢えてる獣なんだ。



「とにかく、僕はダメだよ。」

「わかったー。」



渋々といった感じだ。

正幸は僕と違って感情が顔に出やすいから、見ていて安心する。



「お前、可愛い可愛い砂由ちゃんからお願いされても断るの?」

「当然。」



笑えない冗談だよ。

何が悲しくて、好きな子に他の子を紹介されなくちゃならないんだ。



「意外。砂由ちゃんのお願いはなんでも聞くと思ってた。」

「そこまで甘やかしてないよ。」

「嘘つけ。甘々なくせして。」



仕方ないよ。

砂由が笑ってくれると思うだけで、僕の身体は勝手に動いてしまうんだ。



「あ、ごめん。もう帰るな。」

「ん?あぁ、今日は早いな。」



時計を見れば3時半。



「砂由とこの後待ち合わせてるんだ。」



自然と頬が緩んでしまう。

砂由と外で会うのはとても好きなんだ。

だって、僕達が兄妹だと知らない人から見たら、

きっと僕達は恋人に見えるから。



「このシスコンが。」

「知ってる。」



だって、こんなにも砂由が好きだから。

さあ、早く砂由に会いに行こう。

今から行けば、きっと砂由より少し早く着くだろうから。

そうしたら、砂由を来るのを待とう。


砂由が僕に気付く瞬間も。

砂由が僕に駆け寄る姿も。

砂由が僕に話しかける声も。

砂由が僕に向ける笑顔も。


一瞬たりとも見逃さずに、僕の心の深い所に仕舞っておこう。

けして誰にも気付かれない、深い深い所へ。



砂由、君に会いたい。

汚れた感情をぶら下げた僕にどうか気付かないで。

君の目には、どこにでも居る普通の兄のように映っていて欲しい。



砂由、僕を見て。

その瞳に僕を映して。

目を瞑って仕舞わないで。



ずっと、ずっと、幸せそうに笑っていて。




作品名:記憶の欠片 作家名:アリル