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記憶の欠片

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砂由が生まれた時のことを、僕はまだ幼くて覚えて居ないけど

それでも、砂由が成長していく姿は驚く程覚えている。



「砂由ちゃーん。お兄ちゃんが一緒に遊んでくれるって。」



まだ砂由が言葉を話せないくらい幼い時、

僕は砂由という存在が妹だとは認識していなかったかもしれない。

だから、僕は砂由に興味津々で、何かと砂由の傍にいた気がする。



「勝哉くんは砂由ちゃんが好きねー。」



好きだという感情は無かった。

好きだという感情の意味すら理解していなかった。

でも、砂由という存在は自分より弱いんだって思ってた。

だから、大切にしなくちゃいけないんだって。



「あー、うー・・・・」



何かを話そうとするけれど、まだ言葉が発音出来ない砂由は、

口から音を出す行為だけを繰り返した。

何を意味するのか全く理解は出来なかったけど、

砂由が僕をじっと見ている事だけは気付いていた。



「さゆ、ちゃん?」


いつもならオモチャに夢中な砂由が、僕をずっと見てる。

お腹が空いたのかなとその時は思った。

でも、砂由はずっと僕を見て、何か言葉を発している。



「おー、にぇー、にぃー・・・・」

「?」



たぶん言葉を話そうと練習しているんだとは分かった。

けど、なんで僕を見てなのかは理解出来なかった。

よく分からないから、ふにふにした砂由の頬をつついて遊ぶ。

砂由もきゃっきゃっと嬉しそうに笑うけど、

それでもまだおかしな音を繰り返し発していた。



「おかーさん。さゆちゃん、なんかいってるよ?」

「あら?」



そう母さんに告げれば、母さんも不思議そうに僕の隣に座って

砂由の動向を見守り始める。



「おー、にゃー」

「にゃーにゃ?」



猫のことを言ってるのだろうかと、

母さんが砂由のお気に入りの猫のぬいぐるみを差し出してみる。

砂由もそれを受け取りはするけど、すぐに横に置いてしまった。



「おー、にゃー・・ちゃ!」



ふらふらと砂由のふくふくとした腕が僕の方へと向けられる。

訳が分からないながらに、僕もその腕を掴んだ。



「にーちゃ!」





あの瞬間は、今でもはっきりと覚えてる。

ああ、砂由は僕を呼んでいたんだね。

あんなに一生懸命に、嬉しそうに笑って、

何度も何度も僕を呼んでくれていたんだ。



初めて砂由が僕を呼んでくれたあの時から、

砂由が僕を呼ぶ声はとても特別なモノになった。



幼稚園で周りの子と馴染めなくて、不安そうに僕を呼んだ時も。

小学校の徒競走で一番になって、嬉しそうに僕を呼んで駆け寄った時も。

中学で、些細な喧嘩から怒ったように僕を怒鳴った時も。

高校で初めて赤点を取って、泣きそうになりながら僕を頼ってきた時も。



砂由が僕を呼ぶその声は、どんなモノよりも僕の中に響いて、

どんな騒音の中でも、砂由の声なら探し出せると思ったんだ。




砂由。

もっと僕を呼んで。

その声が枯れるまで、僕を呼び続けて。



僕は砂由の声が聞きたい。

砂由に呼ばれたい。



砂由

お願いだから・・・・・




僕を見て





作品名:記憶の欠片 作家名:アリル