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記憶の欠片

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ふわりふわりと思考が揺れる。

穏やかな気分ではなくて、どこか不安定だった。

でも、不安定でも永遠に続いて欲しいと、何故か思っていた。



「勝哉。おい、勝哉!」

「・・・マサ?なに?」



肩を揺すられて、隣を見れば正幸が呆れたような顔をして僕を見ていた。

何で僕がそんな顔をされなくちゃいけないんだろう?



「お前、俺の言ったこと聞いてたか?」

「・・・・・・・・。」



そう言われて考えてみても、

正幸が隣で何かを話していたことしか思い出せなかった。

そんな僕の考えが顔に出ていたのか、正幸からあからさまな溜息が零れる。



「あれ。砂由ちゃんじゃねぇの?」

「え?」



そう言って正幸が指を指したのは、横断歩道の向こう側にあるカフェ。

見間違えるはずもない砂由が、女の子と楽しそうに話をしていた。

何かを話し、楽しそうに笑う砂由に、思わず微笑んでしまった。



「シスコン。」

「うるさい。」



茶化すように正幸が肘で僕を突いてくる。

改めて言われると何処か恥ずかしい。

でも、僕のこの感情が親愛以上のものだとは正幸も知らない。

だからこそ、こうやって茶化すことができるのだろう。

そして、正幸が知らないからこそ、僕も巫山戯たように対応できる。



「お、気付いたんじゃないか?」



正幸のその言葉に釣られて、カフェの中にいる砂由に目を向ける。

途端、ばちりと合う視線。

一瞬驚いたように僕を見た砂由は、すぐに嬉しそうに笑って僕に手を振った。



「ホント仲良いな。おまえら。」

「羨ましいだろ。」

「はいはい。」



僕も砂由に向けて軽く手を振ると、砂由はどこか気恥ずかしそうに笑って、

隣の女の子へとまた視線を戻した。

友達だろう女の子は時々僕に視線を向けるけど、

砂由の意識はもうその子へと向いていて、僕には向いていない。

それは兄妹として当たり前のこと。

でも、僕の心は小さく痛み出していた。



「俺も妹欲しいかった。」

「マサ、弟いただろ。」

「弟と妹じゃ、きっと可愛さは桁違いだ。」



僕には弟がいないから、正幸の言っていることに賛同は出来なかったけど、

確かに妹が可愛いっていう点だけには頷くことが出来た。

可愛くて、可愛くて、ずっと笑っていて欲しい。

砂由の笑顔が、僕は何よりも大好きなんだ。




――――――・・・・・ドン!!




「・・・・・っ!?」



突然、周りが騒然とした。



「うわ、危ねぇ・・・・。」



近くの交差点で車同士の衝突事故。

どうやら運転手はどちらも無事らしい。

同乗者も他にはおらず、車だけの損失。



「怪我人出なくて良かったな。」



正幸が安心したように歩き出した。

僕もそれに付いて歩く。

でも、足が、震える。



「勝哉?」



この感情は、なんだろう。

怖い。

どうしようもない恐怖が僕を襲う。

分からない。

どうしてこんなにも僕は恐れているのだろう。



「勝哉、どうしたんだよ。」

「大丈夫。ちょっと驚いただけだよ。」



心配そうに僕の顔を覗き込む正幸に、何でもないと笑い返す。

でも、心にこべり付いた恐怖が胸を押し潰してくる。

この感情は、どこから来るんだ。



「なら、いいけど。」



納得していなさそうな正幸だが、

どうやら気にしないようにしてくれるらしい。

僕は無意識の内に砂由を見つめた。

砂由も事故を目撃していたようで、動揺の消えていない表情で

友達と心配そうに交差点を見つめている。



「砂由・・・・・・。」



砂由の顔を見たら、心が軽くなった気がした。

心に巣くっていた恐怖は散り散りになって消えていく。



・・・・・・・・でも、

恐怖と共に心に浮かんだ虚無感だけは、

砂由の顔を見ても、その浸食を止めようとはしなかった。




作品名:記憶の欠片 作家名:アリル