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記憶の欠片

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何故、妹を、砂由を好きになったのか。

僕の周りにも、良い子は居て、彼女たちを好きになる可能性もあった。

それなのに、何故、僕は砂由を好きになったのか。

これは長年の疑問だ。

でもきっと、砂由と過ごしてきた、その長年の間に答えはあると思う。



「お兄ちゃん。本屋行ってくるね。」


「・・・・今から?」



時刻は夜の8時半。

本屋までは自転車で10分の距離だけど、

こんな時間に砂由を一人で外に出したくはない。



「僕も行くよ。車出す。」


「ホント?やったー。」



嬉しそうに笑う砂由は、きっと僕がこう言うことを期待してたんだろう。

じゃなきゃ、家には親が居るのに、わざわざ僕に本屋に行く事を告げる必要はないから。

それを分かっていて思いどおりに動いてしまう僕も僕だけど。

でも、砂由のこんな笑顔を見てしまったら、

面倒臭いなんて気持ちは少しも浮かんでこなかった。



「私も免許取りに行かなきゃ。」


「砂由が運転かー。怖いな。」


「失礼な!」



車の中で零れる笑い声。

BGMなんて必要ない。

ただ、砂由の声に耳を澄ませていたいから。

助手席から僕を見上げる砂由が、世界で一番可愛く見えた。

君と一緒にいるこんな些細な瞬間さえ、僕にとってはかけがえのない一時なんだ。



「お兄ちゃん。」


「ん?」



小説の棚をのんびり眺めていると、砂由が背中の服を引っ張っていた。

これは砂由が僕に気付いて欲しい時にやる癖。

少し強く引っ張られると首が苦しいけど、この仕草が可愛くて仕方がない。



「今度この映画見に行こうよ。」


「もう公開されてたんだ。良いよ。僕も見たいし。」



砂由の誘いを僕が断るわけがないのに。

でも、砂由は僕を誘う時は大抵、僕の趣味を考えてから誘ってくる。

別に砂由とそれ程好みが離れているわけじゃないから、

砂由が僕に遠慮することなんてそうそう無いけれど、

そんな小さな気遣いができるのは砂由の良いところだと思う。



「じゃあ、お兄ちゃんの奢りで。」


「こら。調子に乗らない。」



悪戯っぽく笑う砂由。

それに呆れたように苦笑を零す僕。


何よりも大切な時間がここにある。



砂由。

君には一生この想いは告げない。

君のその笑顔が歪んでしまう事を僕は望まないから。


僕のこの汚れた感情は、僕の深い深い所で閉じ込めるよ。

それが君の為であり、きっと僕の為にもなるから・・・・・・






作品名:記憶の欠片 作家名:アリル