記憶の欠片
2
何故、妹を、砂由を好きになったのか。
僕の周りにも、良い子は居て、彼女たちを好きになる可能性もあった。
それなのに、何故、僕は砂由を好きになったのか。
これは長年の疑問だ。
でもきっと、砂由と過ごしてきた、その長年の間に答えはあると思う。
「お兄ちゃん。本屋行ってくるね。」
「・・・・今から?」
時刻は夜の8時半。
本屋までは自転車で10分の距離だけど、
こんな時間に砂由を一人で外に出したくはない。
「僕も行くよ。車出す。」
「ホント?やったー。」
嬉しそうに笑う砂由は、きっと僕がこう言うことを期待してたんだろう。
じゃなきゃ、家には親が居るのに、わざわざ僕に本屋に行く事を告げる必要はないから。
それを分かっていて思いどおりに動いてしまう僕も僕だけど。
でも、砂由のこんな笑顔を見てしまったら、
面倒臭いなんて気持ちは少しも浮かんでこなかった。
「私も免許取りに行かなきゃ。」
「砂由が運転かー。怖いな。」
「失礼な!」
車の中で零れる笑い声。
BGMなんて必要ない。
ただ、砂由の声に耳を澄ませていたいから。
助手席から僕を見上げる砂由が、世界で一番可愛く見えた。
君と一緒にいるこんな些細な瞬間さえ、僕にとってはかけがえのない一時なんだ。
「お兄ちゃん。」
「ん?」
小説の棚をのんびり眺めていると、砂由が背中の服を引っ張っていた。
これは砂由が僕に気付いて欲しい時にやる癖。
少し強く引っ張られると首が苦しいけど、この仕草が可愛くて仕方がない。
「今度この映画見に行こうよ。」
「もう公開されてたんだ。良いよ。僕も見たいし。」
砂由の誘いを僕が断るわけがないのに。
でも、砂由は僕を誘う時は大抵、僕の趣味を考えてから誘ってくる。
別に砂由とそれ程好みが離れているわけじゃないから、
砂由が僕に遠慮することなんてそうそう無いけれど、
そんな小さな気遣いができるのは砂由の良いところだと思う。
「じゃあ、お兄ちゃんの奢りで。」
「こら。調子に乗らない。」
悪戯っぽく笑う砂由。
それに呆れたように苦笑を零す僕。
何よりも大切な時間がここにある。
砂由。
君には一生この想いは告げない。
君のその笑顔が歪んでしまう事を僕は望まないから。
僕のこの汚れた感情は、僕の深い深い所で閉じ込めるよ。
それが君の為であり、きっと僕の為にもなるから・・・・・・