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記憶の欠片

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思い出








ゆらゆらと揺れる思考の中で、僕はいつも君を想っていた。

いつまでも、この微睡みが続けばいいと、何度も何度も願った。



「・・・つゃ」



邪魔な音を全て排除し、君と過ごした時間を丁寧に思い出す。

笑った顔、泣いた顔、怒った顔。

どんな君でも、僕にとっては宝物なんだ。

――――――・・・・・砂由。



「勝哉。」


「っ!?」



肩を叩かれる感覚で、ハッと目が覚めた。

と言っても、寝ていたわけではなく、ただ思考に浸っていただけ。

僕の肩を叩いた相手に目を向けると、

そこには同じ高校に通い、何の縁か大学まで一緒になった正幸の怪訝そうな顔があった。



「何、マサ。」


「何じゃない。お前、ぼーっとしすぎで、先生の目が痛いから。」



アレアレと顎で促された方には、僕をジッと見据える教授の姿。

そこで僕はようやく、今が授業中だという事を思い出した。



「大丈夫。名前は覚えてないって。」


「ま、そうだけどね。」



必修授業でもない共通授業のこの時間。

僕はいつも他事を考えて過ごしていた。

大学2年にもなると、大学生活にも慣れ、中弛みの時期だ。

物の見事に、僕はその中弛みに捕まってしまっている。



「お前、さっきから携帯震えてる。」


「え?あ、ホントだ。気付かなかった。」


「どんだけ、ぼーっとしてたんだよ。」



呆れたように笑う正幸に、僕も同じように笑う。

本当に、どれだけ深い思考に沈んでいたんだろうか。

机の上に置いてある携帯を手に取って確認する。

メール1通。着信2件。

相手は・・・・・・・・



「砂由。」


「なに?妹?」


「え・・・あぁ、うん。」



思わず口から零れた言葉を正幸に拾われ、心臓が大きく鼓動した。

知らず知らずの内に出てしまう言葉が一番の恐怖。

そういう言葉こそが、真実であることが多いから。

焦りを抑え、取り敢えずメールの内容を確認する。



『ごめん!レポートが間に合わないから、バイト代わって!!』



絵文字も顔文字も一切無い、鬼気迫った様子が伝わってくる文面に、

小さく笑みが零れてしまう。

僕と砂由は同じカフェでアルバイトをしている。

こうやってシフトの交代のやり取りをするのに、兄妹はとても便利だ。

僕は、慌てた様子の砂由に、すぐに返事を返した。



『電話出れなくてごめん。バイト、代わるよ。
 レポート頑張れ。お礼はプリンで。』



今日は、僕も丁度予定が入っていなかったし、

砂由が喜ぶし、お金も稼げるという一石二鳥。

すると、すぐに砂由から返信があった。



『電話出てくれないから焦っちゃったよ。
 お兄ちゃん、ありがとう!プリン絶対買って帰るね。』



その文面を読み、電話に出られなかった事に対する後悔が一気に増す。

砂由の顔が一瞬でも曇ったのかと思うと尚更だ。

砂由には笑顔が一番似合う。

でも、ほんの少し、僕が電話に出ないことに焦って慌てている砂由を

見てみたいという欲求もある。

オロオロとしたその様子は、きっと微笑ましいだろうから。



「勝哉、何ニヤけてんの?お前、本当シスコンだよな。」



そんなに間抜けな顔をしていたのだろうか。

やはり、自覚かない行動が一番怖いと再認識する。

あぁ、それでも、さっきよりも心が軽いのは、

きっと砂由のメールの効果なんだろうな。



「まあね。砂由が一番可愛いよ。」


「あー、はいはい。」


シスコンでも、何とでも呼んでくれれば良い。

僕の世界では、砂由にしか色はなく、

その他の砂由に関係の無いものは、全てモノクロに見えてしまう。

でも、僕はそれを不幸とは思わない。



砂由を想うと罪悪感が付きまとう。

砂由は僕のこんなねじ曲がった感情は知りもしない。

・・・・そう、知らなくて良い。

砂由は、こんなどす黒い淀んだ感情に触れなくていいんだ。





君のその笑顔が、永遠でありますように。








作品名:記憶の欠片 作家名:アリル