ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。
みみさんは確か、そんなに猫好きじゃなかったしなぁ。
まっ、どうでもいいさ。
「分かった分かった。きおつけるよ」
「是非そうして」
「うん。じゃ、僕は起こしに行くから」
「ええ」
みみさんはそう言って、ももちゃん達がいる方に向かっていく。
僕はそれを見送り、再び階段の方へと意識を向ける。
「…………………さて。」
さっさと。
「行きますか。」
僕は階段を昇っていく。
その途中、僕はなぜか壁に飾ってある猫がネズミをくわえている絵を見た。
……………………いいなぁ。
ももちゃんは一匹も当てれなかったのに。
猫でも出来るのに。
ももちゃん…。
とは思っていないし、そもそも僕はそれほど絵画に興味はないし、ももちゃんを猫以下の馬鹿野郎なんても思っていない。
ただ、…、って感じで流し目を送ったけだ。
そして折り返しを曲がり、僕は2階についた。
2階には部屋が階段を挟んで2つと、さらに奥に1つ部屋があり、その内の階段を挟んで右側にある部屋が僕の部屋だ。
あと、一番奥にあるのがももちゃんの部屋で、最後の1つが僕の目的地。
「ふむ」
階段を挟んで2つの部屋。
右側が僕で、左が目的地。
そして奥の方に行って振り返って見れば、左側と右側が逆に……ってどうでもいいけど。
とにかくは僕は左側、目的地の部屋へと足を向けた。
コンコンと、軽く手のこうでノック。
念のため。
ついでに声も出しておく。
「入るぞー、……………よし」
返事なし。
今更だが、これで万が一の事故(具体的には着替え中になんたらというやつ)の時でも言い訳が立つ。
別に言い訳をしなきゃいけないような相手でもないけど。
それこそ、今更だ。
それから僕は特に気負いもせずに、ドアを開け放った。
「……………………」
うん。
やっぱりいつも通りだ。
僕は、部屋の中へと入っていく。
中は、閑散としているという言葉が似合うくらい物が少なく、目に見える範囲にある物は、机と椅子とベットと本棚ぐらいだ。
その他には、一様奥の方にクローゼットもある。
部屋の造りとしては、僕の部屋と真反対な感じ。
つまりほとんど一緒。
そんな部屋の左上端に、1つのベットがおいてある。
ステンレス製の簡素な造りで、これまた特に見栄えもしないような一般的な掛け布団に無地の毛布。
とてもじゃないが、かわいらしさの欠片も感じられない。
他の家具にしてもそうだし、机上にあるのは鉛筆立てに教科書が数冊、それとなぜか500円玉が3つほど。
これの意味は特に分からないけど、気にするほどのことでもない。
そして唯一それっぽさを感じさせるのは、机の角においてある真っ赤な折り紙で作られた折り鶴。
作ってから結構時間が経っているせいか、若干萎れているように思える。
全体的に見るとなんだかまったく個性が感じられない部屋だ。
むしろそれこそが個性みたいな。
「さーて。」
僕はベットに近寄り、それを上から眺めてみる。
その布団を見る限り、まだ寝ている人間がいるのはあきらかだ。
だって掛け布団がこんなに盛り上がってるし。
中身の人の顔は、掛け布団を完全に被りきってしまっているため、まったく見えない。
で、とりあえず揺すってみる。
ゆさゆさ。
「…………………」
起きない。
強硬手段に出ることにした。
「せいっ」
掛け布団をひっぺがえす。
重ねて被っている毛布ごと。
なかなか豪快に。
これを寒いときにやられると、温かかった空間に一気に冷気が入ってきて、中の人は相当驚くのだ。
これをやられて、まず起きない人はいないが。
「………………………起きろよ」
そのベットの主には、まったくと言ってほど変化は起こらなかった。
規則的な寝息を繰り返し、瞼を閉じたまま。
起きる気配など微塵も感じられないほどに。
熟睡と言うより、どちらかというと生きた死体みたいな。
そんな印象の寝方をしている女の子だった。
「………………うむ」
何となく僕は、その子を寝姿を眺める。
日本人形みたいに長くて黒い髪に、さらにその髪型までも前髪パッツンで、余計にそれっぽさが際だっている。
ももちゃんと同じくらいの身長に、全身血の気がまったく感じられないほど、あえていうなら一度も日光を浴びたことがないような白い肌。
体の発育は・・・まぁそこそこ。かろうじてももちゃんに、勝ってる、かなぁ?。
みみさんには絶対敵わないだろう事は、言うまでもないが。
太鼓判を押しても良いぜ。
とにかく言えることは、その顔つきもなにもかもを合わせて言うと、着物を着せたら誰よりも似合いそうだということ。
外見だけなら、大和撫子という言葉がよく似合う。
でも、………なぁ。
僕は、布団から手を離してそいつを見る。
「この寒いのに、キャミソール1枚で寝るとは」
いやはや、風ひくぞ。
しかも本当にこれ1枚しか着ていない。
他の下着は着ずに、これ、1枚だけ。
寝るときは下着がしまるからいやとは言っていたけど、ここまで拘るとは脱帽ものだ。
それに横向きに寝てるいるせいか、微妙にはだけて、お尻が見えかけている。
なかなか扇情的なポーズに見えなくもないが、僕からしたら一刻も早く起きてくれる方が助かるので、とにかく起こすことにした。
「………………結局」
僕は、何気なく言う。
「いつもと同じか。」
たまには、自分で起きることもあるかなとおもったんだけどなぁ…うん。
やっぱり、いつも通りだ。
相も変わらず、毎日毎日、繰り返し繰り返し。
「…………まっ」
これは、僕の役目だしね。
他の人には、譲れませんよ。
譲りたくとも。
それにきっと。
これからもずっと。
…………………………たぶんね。
僕は、ベットに乗り出すように腰掛けて、それから布団を剥いだ女の子の脇にそっと手を入れ、よいしょと言って、持ち上げる。
そして、布団に乗り出した僕の膝の上にまで持ってきて。
両手を背中に回して。
正面から。
自分の体温に触れさせるように。
出来るだけ体をくっつけて。
抱きしめる。
「……………………紅葉」
僕は、女の子の耳元で、
「起きて。朝だよ」
抱きしめたまま、言う。
そして、そのままで。
数分間そのままで。
それから。
紅葉の真っ白な頬が、少し、赤みを帯びてきた。
まるで、冷たい氷が溶けていくかのように。
紅葉は、覚醒する。
「………ぅ」
ゆっくりと、目を開き。
「……………んっ」
僕の事を、その済んだ両眼に映し。
「……んん………………………おはよう。そして御苦労、コウ」
紅葉は、朝の挨拶。
少し寝ぼけ顔。
「おはよう紅葉。もう朝ご飯みたいだよ。」
僕は、そんな紅葉の体をゆるりと離しながら言う。
そして、その言葉を聞いて紅葉は軽く体を伸ばす。
「ん、…………そう。って、寒いっ!。寒すぎる!!、なんでこんなに寒いの!?」
今頃気づいたのか。
にぶいのか…………いや、寝ぼけてただけか。
このお寝ぼけさんめっ。
「だったら寝る時にもっと着込めばいいのに。」
直に触ってるから分かるけど、紅葉の体はとても冷たい。
まるで、本物の氷のようだ。
溶けられたら困るけど。
「いや。絶対いや。死んでもいや。殺されてもいや。転んでもいや。そんなことするぐらいなら裸で寝る。」
だけど、紅葉はすぐに否定した。
しかも絶対って言った。
作品名:ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。 作家名:ムクムク