ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。
精神が、本来の機能を取り戻している。
初めの行為を行った時に現れた、・・・・・・いや。
彼と、彼女が一緒にいるのを見たときからあった、精神の麻痺状態。
今考えると、どうして自分はあんなことが出来たのか。
それが、少し不思議だ。
やってしまったことなのだから、全部今更なんだけど。
今更なんだけど、殺してしまった彼と、彼女には申し訳なく思う。
確かに自分は、今の生活が、世界がつまらなかった。
それを認識した瞬間から、自分の価値観が総入れ換えを行い、それにともない、自分が価値があると思えるモノが、9割ほど、消失した。
きっかけは、今ではもう思い出せないけど。
思い出せないけど、彼は、突出していた。
だから自分が、彼に並ぶためのきっかけが欲しかった。
あの時、あの場所で彼に出会ってから。
今でも、まだ少し、それが心残りだ。
出来れば、もう少しぐらい彼といたいけど。
それは、もう無理。
芽生え始めた罪悪感が。
確実に、自分の心を侵し始めている。
襲い来る自責の念から、逃れることは出来ない。
だって、自分の心なんだから。
これからも一生、付き合わなくちゃいけないはずなんだけど。
やっぱり、無理だ。
どうしようもなく。
今だって、両足も、両手も震えている。
今にも壊れそうな自分が、認識出来る。
・・・・・・そうか、自分はこんなにも脆いのか。
16年とちょっと生きてきて、ようやくそれが分かった。
今更、だけど。
そこで、ふと視線が前を向いた。
今、自分の眼前に広がる風景は、とても広い。
風が吹きつけ、自分の体を撫でるのも、心地よい。
世界を俯瞰から眺めている自分が、本当によく認識出来る。
自分が、どれだけちっぽけな存在なのかも。
目を瞑る。
思い返すように。
今までのことを全て。
それで、その結果の感想を言うなら。
締めを彼にやってもらったのは、満足行く結果だ。
第2希望だけど、まったく問題ない。
むしろありがたい。
そんな彼に一言。
ありがとう。
・・・・・・・・・・・・えへへ。
私は笑顔を作ってみて、失敗して。
そろそろ、自分が完全に駄目になってきているのを認識して。
それから。
目を瞑ったまま。
俯瞰から、飛び立つことにした。
<21章=さっ>
「よこっらしょー・・・・・・と」
しょーいちと言いたくなったが、どうにか欠片ほどの自制心で制すことに成功した。
ともかく僕は、登校してきた自分のクラスに入り、自分の机の椅子に座っている訳だ。
悪いね、毎日毎日男の尻なんて押しつけてと僕は椅子に謝ったりもしないけど、窓ぎわの席を有効活用して窓の外なんかを優雅に眺めたりしている。
今日は5月の半ば過ぎくらいの月曜日。
先週のごたごたから数日と2日間の休暇を終え、今日からまた5日間の授業がゆったりこってり開始されてしまう。
「ふぁー・・・・・・」
外を見ていたら思わず大きく口を開けて欠伸をしてしまった。
もう、ももちゃん。朝練張り切りすぎ。
後ちょっとで腰が砕けるところだったよ。まったく。
あーでも、今日のお弁当は楽しみかな。
何と言ってもももちゃん作キノコか何かのオムライス弁当。
形を崩さずに持ってくるのが大変だったさー。で、その努力が4時間目の授業後に堪能出来るわけだから、いまから待ち遠しくてそれはもうって感じ。
ぬふふ、日の丸の旗とか刺さってたら嬉しいかな。さすがに冗談だけど。
「ん?」
そこで、教室の扉が開く音がしたので、何となく僕はそっちのほうを見る。
すると、教室に入ってきたその人は、僕と視線を合わせた。
「おはよう、茉矢木くん」
僕がそう茉矢木くんに声をかけると、彼は狐みたいな両眼をさらに細めて頷く。
「おはよ」
そして茉矢木くんは、ゆっくりと教室を横切りつつ、僕の方にやってくる。
ただし目的は、僕と話すためだとか、そんな理由じゃないんだけど。
「・・・・・・・・・・・・」
茉矢木くんは僕の側まで来て、だけどその途中、僕の隣の席の前で止まって、じっとその席を眺める。
もしかするとついに机愛好家に目覚めたのかと一瞬考えようかと思ったけど、いや実はあんまり思ってないけど。
とにかく茉矢木くんは、その使用者がいなくなった机と椅子を、じっと見つめる。
細い目を極限まで細めて。
机に使われた木の年輪でも見てるのかな?、と疑問が浮かぶくらいに。
動かず喋らず。
ただじっと、何かを偲ぶように立ちつくす。
だから僕も、特に彼に話しかける理由も無かったので、そのまま黙ってその茉矢木くんを眺めてみる。
ついでに、使用者がいなくなったその学校の備品も。
木沢梨沙が使っていた、それを。
そして、何となく僕は、回想1を入れてみることにした。
彼女は。
木沢梨沙は。
あの深夜の出来事の次の日の早朝、学校で発見された。
無惨な、飛び降り死体の形となって。
この学校に、3日連続の血の池を作って。
最後は美術部らしく、自分自身の体を使ってそれを描いたわけだけど。
つまり傑作を、いやいや血作ですかな?。
どうでもいいけど。
彼女が発見されたのは、早朝。
まだ朝の部活動略して朝練も始まっていないような時間。
いつものように一番早くに学校に到着する用務員さんによって発見された。
ついでにその用務員さんによって警察やらなんやらに連絡が行き、色々調べられた結果、死んだのはどうやら僕と別れてすぐのことだったらしい。
あ、今回は普通に飛び降りて死んだのよ。
飛び降りが普通かどうかは知らないけど。
決してゾンビになるなんてお行儀の悪いことはしてないのよ木沢さんは。
まぁ最初は警察の人も、まさか3人目の犠牲者が、みたいな感じになってたみたいだけど、そんなこともなく。
彼女が飛び降りる際、靴と一緒に残した諸々の品によって全ての謎が開かされたというわけさ。
いやはや、何と言いますか。
それに伴い例の2人組の刑事が僕の所に来たときは僕もさすがに・・・まぁ特に感想は浮かばなかったけど。
わざわざ何のご用かなぁって思いつつのその時の会話。
「こんにちわ学生さん」
「ご苦労様です刑事さん」
「おおっ、まさか君に労ってもらえるとは思いませんでしたよ」
「いえいえ、社交辞令を真似した言葉ですのでどうかお気になさらずに」
「あっはは、そうですねえ。礼儀は大切ですよ、特に若い内は」
「なるほど。つまりあなたは反面教師になってくれると」
「せっかくだから正面切ってもいいんですがね」
「それは結構。僕にはもうすでに心の師仰いで仕方がない人とかが頭の中にいますから」
「そうですかあ、残念ですね。あ、これは社交辞令ですから」
「そうですか。それは僕としても助かりました」
「それはそれは。大変結構なことで」
「はい。・・・そういえば風の噂で聞いたんですが」
「なんです?。」
「どうやら事件、解決したみたいじゃないですか」
「ええ、ついさっき終わりましたよ」
「おめでとうございます」
「どうも。それも社交辞令ですか?」
「どうでしょうね」
「どうなんですかねえ」
「でも大活躍じゃないですか刑事さん、たった3日で事件を早期解決」
「かかった時間の分人が死にましたけど」
「しかも最後は、犯人の自殺によって事件を締めくくられてしまったと」
「大活躍ですねえ」
作品名:ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。 作家名:ムクムク