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ぐるぐる廻る、僕らと僕と・・・。

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そういえば、聞いたことがあったな。
12才で、悟りを開いてしまって、それゆえ自分の無意味さを自分自身で思いこんで、自殺した少女のお話。
木沢は、つまり、それの、もう一つの例となったわけだ。
道徳もあって、理性もあって。
でも、踏み外す・・・・・・いや、踏み込んだのかな。
自信はないけど。
今までの全部が僕の、妄想の話だから。
でも。
そこに意識外から後押しがあったのは間違いなくて。
僕は、それの清算をしにきたのだから。
「そうだからこそ、君は僕みたいなやつに惹かれてしまった」
「・・・・・・」
俯瞰から見てこそ分かる、僕自身の、異質さ。
そのズレを、意識してしまった。
それが、どんな意味があるのかもしらないで。
大抵の人間は、それを無意識に感じ取って、僕を避ける。だけど希に、木沢のような人も現れる。
そして大抵そういう人は、加速させられる。それも、無意識に。
「木沢は、僕の世界を見たくて、僕に見て欲しくて、僕に対して善意を込めて、悪意をふるった。僕と同じ場所に立つために。僕と同じ視界を手に入れるために」
なんて矛盾なんだろう。
と、僕は思う。
想像なんだけど。
想像なんだけど。
思ってしまっている、分からないけど。
もしかすると、思っていないかもしれないけど。
「うん。それでは、最後の質問をするよ」
僕は、木沢に問いかける。
「人を殺して、終わらせて。君の世界に、何か変化があった?」
「・・・・・・」
「自分の視界に映るものは、何か、変わった?」
「・・・・・・」
木沢は、顔をしたに向ける。
どうやら、大した変化はなさそうだった。
当たり前だけど。
自分は、どこまでもいっても自分なんだから。
僕が言えた義理じゃないけど。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そうして、少しして、見上げるように、木沢が、僕を見る。
「こうくん」
「なに?」
木沢が言う。
「どうして、・・・・・・その、そんなふうに思ったのかな?、私が、・・・そう、思ってるって」
「ああ。だから、大したことはないよ」
うん、まったく、大したことはない。
「僕はただ、ちょっとばかし、人の思考、思想、性格を追いかけるのが得意なだけなのさ」
「追いかける?」
「うん。その人の行動を見て、表情を見て。その人の思考を追いかける」
「心を、読めるってこと?」
「うんん、まさか。そんな超能力みたいなことは出来ないよ。そんなことが出来るならこんなにも苦労はしない。僕はただ、追いかけていると想像して、言っているだけ。だから、僕の言うことは全部当てずっぽう。適当にそうじゃないかと当たりをつけて言っているだけ。なんていっても全部が全部、妄想だから」
でも、それしか取り柄がないんだから。
それを活かすことしか、僕には出来ない。
「・・・・・・どうすれば」
「うん?」
「どうすれば、私もこうくんみたいになれたのかな?」
木沢は、目を細めて、小さく笑って、言う。
それに対して僕は、肩を竦めて、
「君は僕にはなれないよ」
と、人として当たり前の事を、言ってみた。
「どうして?」
「君が僕みたいなやつになるには、少しばかり、満たされすぎているから」
僕は、空っぽだから。
そう言うふうに、組み上げられてしまったから。
主義も、主張も、主観も。
僕にとってそう言うモノは全て、意味をなさないから。
色々なものが流れ込んでくるし、すぐに壊れそうになってしまうけれど。
だからこそ僕は、他人の思考を追いかけていると思いこむことが出来る。
僕から見る風景は、いつもまっさらだから。
だから、自分の主観を挟まずに、人の見る風景を考えることが出来る。
あんまりやりすぎると、僕自身は飲み込まれて、染められそうになってしまうけど。
だから普段は、出来るだけ考えないようにしてる。
「ふーん、・・・・・・そっか。無理、なのか」
木沢は、小さく呟いて、歩みを止める。
まるで、僕との間に明確な壁を見つけてしまったみたいに。
「・・・・・・・・・・・・うん。やっぱりこうくんは違うんだね、私とは」
「どうだろうねぇ。僕はまだ、ましだと思うよ。この世界には、悪意という概念そのもの埋め込まれてしまった女の子とかもいるわけだし」
取り巻くモノを巻き込んで、触れたモノを狂わせて。
自分の意志とはまったく関係無しに、全ての悪意を肥大化させ、加速させてしまう。
見境なしに、どんなモノでも。
影響を受け、染まっていく。
それ自体は、どんな方法で埋め込まれたのかは分からないけど。
見えないモノだからこそ、無意識下で侵されていく。
今回の、木沢梨沙のように。
本来は理性のブレーキがかかるべきところで、間違って、アクセルを踏み込まされてしまう。望む望まぬ関係無しに。
「うーん、・・・・・・よく分かんない」
けど、と木沢は付け足し、止まったまま僕に言う。
「私も、こうくんに、聞きたいことがあったんだ。いい?」
それに対して僕は、快く首を縦に振ってみる。
「スリーサイズ以外ならいいよ」
「あー、それもちょっと気になるかも」
木沢はおどけながら、顔を覗き込むように僕を見る。
静かに微笑みながら、今まで見た中で木沢の表情の中で、一番儚げに。
木沢は、ゆっくりと口を開いた。
「こうくんにとって、1番大事なモノってなにかな?」
木沢から、僕に聞かれたその質問。
それに対して僕は、特に考えず答える。
考えるまでもないことだから。
僕にとって。
全ての目的はそこに収束するんだから。
迷う必要は一切合切存在しない。
「今のところ、僕とって1番大事なのは」
今までも、そしてこれからも。
そうであると、いいのかなぁ?。
「僕の家族、かな」
かつくんやらみみさんやらももちゃんやら。
紅葉とかね。
みーんな、僕の家族です。
「そっか・・・・・・、家族、か」
木沢は、そう呟いて。
「じゃあ、2番目当たりに、・・・・・・私が入っちゃ、駄目かな?」
と、僕に求める。
いつもの上目づかいで、うむ、かわいいのぉとか僕も思ってるけど。
だけど答える僕の言葉は、すでに決まっている。
こっちも、迷うはずがない。
僕は、基本的に受け身だから。
「別にいいよ。木沢がそれでいいのなら」
「いいの?」
「うん、全然いいよ」
さーて。
そろそろかな。
いい加減にしないと、僕の器が軋み始めている。
誰かの心になりきりすぎて。
ここのままでは、僕は誰かに染められてしまう。
僕が、誰か別の人になってしまう。
それは駄目なんだ。そっちのほうがきっと、間違いなく楽なんだろうけど。
僕は、もっと簡単に生きていけるんだろうけど。
この形を受け入れたのは、僕なんだから。
僕は、僕なんだから。
切り替えよう。元に戻そう。
切り換えのスイッチは決まっている。
後は一言、いつものように言うだけだ。
「だって」
さあ、僕に戻ろう。

「どうでもいいから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えへへ」
僕のその言葉に、木沢は、いつもようにはにかんで、笑った。
「へへっ。やっぱり、こうくんなんだね。うん、こうくんだよ」
「そうだねぇ。それじゃあ木沢、僕はもう行くから」
「うん」
木沢は、笑いながら言う。
「またね、こうくん」
「さらばだ、木沢さん」