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【未】少女はヒロインになりたかった【過去作】

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┗幼なじみ





青年、遠藤翼…が帰った後の生徒会室では、真知と雪弥による冷戦が行われていた。


理由は、例のタオルについて。



「それ、『俺の』タオルだよな?」


「うん。だから返すって言ってるじゃん」


「あの1年が『鳥の死骸の』血を拭いた、タオルだよな?」


「漂白したらしいよ。真っ白!」


ね?と微笑みながらタオルを広げる真知は大変いつもと違い可愛らしい。が、逆にその微笑みが怖い。



「じゃあこのタオル、要らないの?」


真知がそう言うと、雪弥は『うっ』と言葉に詰まった。

確かに要らないと言えばいい。だが、それはそれで何かが面白くない…!


「……いる」


「じゃ、はい。ありがとう」


にっこりと微笑んだまま、まだ微妙な顔をしている雪弥にタオルを押しつける。
座っていた裕太が『はわ〜…』と間抜けな声を上げた。


「雪弥が負けてる……」


「負けてねぇ!」


「仕方ないさ。なにしろ彼、昔から真知には負けっぱなしだ」


「それはお前もだろ!シンヤ!」


「生憎と僕は、真知と喧嘩なんてした事無いからね。痴話喧嘩は君の十八番じゃないか」


裕太をはさんで繰り広げられる、シンヤと雪弥の会話に、ミチは携帯をいじったまま面白そうに目を細め、ナナは『あー…』と苦笑した。


「3人は幼なじみだっけ」


いつの間にか席に戻った真知が『うん』と頷く。


「といっても、雪弥は幼稚園と小学校・中学校は別だし、シンヤは家が近くはない。腐れ縁みたいな感じだな」


「へぇ?」


「有りがちね…そのまま二人が真知を巡って対決して、真知がどっちかと付き合えばさらに俗世染みたくだらないラブロマンスになるのに」


皮肉めいて言うミチだが、彼女に悪気は無い。本当にそう思っているのだ。
そして真知もまた、『そんなのはくだらない』と思っている人間である。



「恋も愛も、所詮人間のエゴ…か」


真知が鼻で笑いそう言うと、ミチは目を細めた。


「真知もそうとう悟りを開いてるよね」


「そう?」


(他の人が子ども過ぎるんだよ)という言葉を、真知は笑顔の裏におさめた。


シンヤと雪弥の口喧嘩は、いつしか裕太をいじる事に変わっていて、それもまた、真知にそう思わせる要因であった。



まったく、人間というのは愚かで、くだらない。


「でもそこが、愛おしい」



















「あ、木更津先輩!」


冷えているローファーに足をいれると、背後から低い、けど高い声が聞こえてきた。


「遠藤、」


「今終わったんスか?」


そう言って嬉しそうに駆け寄ってくる姿をみると、やはり犬を連想してしまう。


「ううん、結構前に終わったけど、ちょっとやりたい事をやってて」


自分はどうしたのだろう。
昨日は、彼の真っ直ぐ過ぎる目を見るのが嫌だったのに、今は正面から見ている。それに、別にただ『うん』と返しても良かったのではないか?


「そうなんですか。あっ先輩、途中まで一緒に帰りませんか?」


遠藤翼は、また顔をパァッと明るくした。


「自分も、いつもあの道を通って帰るんスよ!」


あの道、とは、昨日鳥の死骸を見つけた坂の事だろう。別に断る必要もないので『いいよ』と言ったら、驚いた顔をしたあとに、また嬉しそうな顔をした。


「……あれ」


直ぐに帰宅準備の終わった遠藤翼と共に昇降口を出ると、クラブハウスの方からやってきたらしい雪弥と鉢合わせをした。


「真知、まだいたのか」


「うん」


「……俺も一緒に帰る」


なんだか駄々っ子のようだ、と苦笑すると、雪弥は翼に目線をむけて『いいよな?』と言った。


「自分は別にいいッスよ」


なんだかこれじゃあ、翼の方が大人みたいだな。