【未】少女はヒロインになりたかった【過去作】
┗少年少女
次の日もまた雨だった。
窓に叩きつけられる雨をみて、珍しく部活も無いらしい雪弥が、『昨日さ、』と口を開いた。
仕事慣れをしていない1年生は、2年生に連れられてコピー機の使い方を学びに職員室へと出かけた。
そういうわけで生徒会室には今、3年の6人だけ。仕事も無いので、各自が好きな事をしていた。
その中で、真知の向かいの机にいた雪弥が、机に寝そべったまま喋りだした。
「昨日帰ったら、窓ん所に蛙がいて。なんでか知らないけど、蛙がいない方の窓を開けたんだ」
さっきまで談笑をしていた他のメンバーが、淡々と語る雪弥を見ている。
「そしたら蛙が窓と窓の間に挟まって、どうやっても取れない。思い切ってまた窓を開けたら、蛙がプチッて破けて」
雪弥の隣で、裕太が顔を青くした。
「紅い血が…」
「やめろよ雪弥!なんでテメェはそう淡々と言うんだ!」
『キャー』と言いながら、裕太が雪弥の肩を揺さぶる。
シンヤはそれを見て爆笑して、ミチと、生徒会長のナナは、顔を見合わせて苦笑している。雪弥に便乗して『そういえば』と真知も昨日の出来事を語る。
雪弥の時と似た反応がくると思ってたが、雪弥以外の4人は皆、驚きの顔をしていた。
「どしたの?」
「いやいやいや、真知、流石にそれは無いよ」
最初に口を開いたのはナナだった。
「でも気になるね、素手で死骸を持っちゃった陸上部男子」
携帯片手に言うミチ。
「探してみる?言い方からして1、2年だよな」
面白そうに企むシンヤ。
「てか、なんでタオル?」
疑問に思う裕太をよそに、生徒会執行部では『その陸上部男子を見つけよう』と(一部)団結した。
そしてごめんよ、雪弥。と真知は心の中で詫びた。
陸上部男子に押し付けたタオルは、実は君から借りたタオルです。
探さずとも、少年は自らやってきた。
控えめに叩かれた生徒会室の扉を開けたのは、一番近くにいた雪弥で、それを他の5人は見ていた。
「木更津先輩、いますか?」
やっぱり控え目に雪弥にたずねたその長身の青年は、今まさに話しのネタになっていた彼で、その一言だけで4人はその青年が『例の』鳥の死骸を素手で掴んだ陸上部男子だと分かった。
残り2人のうち、1人は当事者である真知だから、既に彼の顔は知っていた。
しかしもう1人は、生徒会執行部一空気を読まない男・裕太だった。
「何なに、真知ちんの彼氏!?てか告白!?」
「馬鹿かお前」
シンヤが裕太の頭をペシリと叩くのを横目で見ながら、雪弥がこっちを見ているのに気づき、立ち上がって雪弥と青年の元へ行く。
背が高い陸上部だとは思ったが、雪弥より高いかもしれない。そんな事を思いながら、青年に向き合った。
「あのっ、これ、ありがとうございました!」
青年はタオルを差し出し、深くお辞儀をした。真知の隣で雪弥が眉を潜める。
「真知、このタオル……」
「別に返さなくてもいいって言ったのに」
雪弥の言葉を遮り、青年に話しかける。
「いえ、借りた物は返しませんと」
「律儀だね」
そう言うと、青年は嬉しそうに笑った。
なんだか、犬みたいだ。
「私は、君の名前を知らないんだ」
口がそう、言っていた。
「不公平だと思わない?」
ニヤリ、と笑って彼を見上げると、意図が分かったようで青年はまた微笑んだ。
「タスクです。翼と書いてタスク。1年B組、遠藤翼です。木更津先輩」
そう言う彼の頭をなんだか無性にぐしゃぐしゃにしてやりたくなったのは、幻覚のようにイメージとして見える犬の耳と尻尾のせいだ。
それも多分ゴールデンレトリバー。
作品名:【未】少女はヒロインになりたかった【過去作】 作家名:木白