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メギドの丘 三章

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思考が常人よりも加速している当夜にはこれだけで分かってしまった。
女の正体がアリシアなのだと。
男の正体がローマ教王なのだと。
「アリシアか? そこにいるのはアリシアか?」
すると、女もとい少女、否、アリシアが震える声で話し始めた。
「ごめん・・・・・・なさい。騙すようなことになってごめんなさい。わたし、当夜さんを殺すことが出来なくて・・・・・・当夜さんは何も悪くないから」
当夜は、思った。あの時、利用されるか利用するかのどっちかだ、と決めたはずだと。しかし、そうはいっても結構心が抉られる思いだった。
当夜は、アリシアの言葉に返すことが出来なかった。その代わりに男、ローマ教王が話し始めた。
「まぁ良い。どうせ神谷当夜は死ぬ。これは神に決められた運命なのだから」
ローマ教王がそう言った時、視界を覆う物が外された。
そこにいたのは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたアリシア、嘲笑を浮かべるローマ教王だった。
「世界は崩壊を始めているのだよ、神谷当夜。七つのラッパが鳴らされるときに世界は改変される。我々は皆平等に審判を受けなければならないんだ。それには神谷当夜、君の存在が邪魔になるのだよ。神の遺伝子の覚醒の可能性のある君がね」
「世界の改変・・・・・・俺達が戦ってきたことに関係するんだな? あの精霊と呼ばれた者が、お前の言うラッパだな・・・・・・神の遺伝子は分からねぇけどよ。さっきから訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「さすが、頭の回転が速いね。しかし、それももう終わりだよ。今から君には死んでもらう」
ローマ教王の目つきが変わったのを当夜は見た。あれは人を殺す決意をしたものの目だということも分かった。
「こんなことをして何になる!? 自分たちの思い通りにならないからって人を殺すのか!?」
「人は皆平等。君だけが神の救いを受けることは許されない」
「んな訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
当夜はアリシアの涙を見てから一瞬で冷静さを失っていた。小さな少女を傷つけた本人が目の前にいるのだから。当夜には、分かったのだ。理由は分からないが、アリシアはこの男に利用されただけということが。
アリシアの涙が物語っているのだ。
そんなアリシアの涙を侮蔑するかのようにローマ教王が言った。
「アリシア・・・・・・彼を殺せ」
そして、闇を象徴するかのような黒光りした小さな凶器を、小さくても人の命を瞬く間に奪える物を、アリシアの小さな手に無理矢理握り締めさせた。
「嫌です」
「殺せ」
「嫌です」
「殺せ」
「嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌です嫌だああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
アリシアは断末魔のような叫び声を上げた。地面に座り込み嗚咽を撒き散らしながら泣いた。羞恥も何もない赤ん坊のように泣いた。
「アリシア、撃てよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だ。これは勝つための戦いだろ?」
「出来ません・・・・・・死んじゃうじゃないですか・・・・・・当夜さんが死んじゃうじゃないですか・・・・・・出来ませんよ」
「たった数日で情が移ったか。これだから孤児上がりは使えん。また孤独を味わう日々に戻りたいのか?」
ローマ教王の言葉で、ビクッとアリシアが全身を震わせた。
それでも頑なに引き金を引こうとはしなかった。
「数日だけでも当夜さんは、わたしにとってお兄ちゃんのような存在でした・・・・・・だから・・・・・・・・・・・・出来ません」
「もういい。分かった。わたしがやろう」
ローマ教王は、アリシアの手から拳銃を取り上げ、銃口を当夜の眉間に向けた。
この距離なら外すこともないだろう。
「やめて・・・・・・やめてください・・・・・・当夜さんを撃たないでください!」
アリシアが、ローマ教王の足に必死にしがみついた。実に滑稽で、実に美しく、実に純粋な姿だった。
「アリシア・・・・・・大丈夫。お前が心配することなんてなんもねぇよ」
死を目前に思い出すは、やはり日本のこと。
(奏が知ったら、怒るんだろうなぁ・・・・・・いや、泣いちゃうかもな)

――バンッッ!

人間を死に至らしめる、残酷な音色が響き渡った。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

その残響は、少女の断末魔にも似た声だった。


場所は変わり日本。
四百刈奏は苛立ちを隠せずにいた。
「何で、支部を七十二階に作ったのよ!」
原因はこれ。急いでいる時の目的地が七十二階となると、人間は誰しもが苛立つであろう。
奏の苛立ちが頂点に達するころにエレベーターの扉が、奏とは正反対にのんびりと開いた。
奏はエレベーターの扉が開くと同時に叫んだ。
「精霊が現れたの!? 場所は!? 状況は!?」
奏の叫んだ先には、朔夜、結、佐江の三人が待機していた。残りの真弥、涼は連絡がつかないのか、到着していないだけなのか、まだ来ていなかった。
「目標は、まだ攻撃と言った攻撃はしていないわね・・・・・・何かおかしいわね。気をつけて行ってきなさい。ちなみに場所は・・・・・・月に一番近い場所、富士山よ」
佐江が冷静に状況を説明した。佐江の説明を聞き終え、了解とだけ返事を返し、奏は結の元へと駆け寄った。
「結、朔夜ちゃん、行くわよ!」
「了解」
「分かりました」
そして、三人の姿は結の能力で朧げに霞み、瞬く間に消えて行った。

作品名:メギドの丘 三章 作家名:たし