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メギドの丘 三章

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 ロビーはこぢんまりとしており、年季の入ったレセプションデスクがある。 緑のカーペットが敷かれた伝統的なスタイルの座席エリア設置されている。 座席エリアは座り心地の良さそうなクリーム色の座席で、ひじかけ椅子や木製のコーヒーテーブルが置かれている。 座席エリアの周りには植物や木製の支柱あった。
 「はい、当夜さんの部屋の鍵です。後は、各自夕食を食べて、お風呂を済ませ、二十一時目途に屋上ガーデン風のレストランがあるのでそこで明日の作戦会議をしましょう」
 「了解。だけど俺、一人で行動とか不安でたまりません」
 「あなたは小学生ですか? 迷子になった幼稚園児ですか? とりあえず二十一時にレストランに来てくださいね」
 そう言い残し、アリシアは消えて行った。残された当夜はさながら迷子になった幼稚園児だ。
しかし、そこは年上の男のプライドとして、夕食、風呂という任務を二十一時までにこなした当夜だった。


時は二十一時、当夜とアリシアが向かい合って座っていた。屋上ガーデン風レストラン、ローマの街並みを見渡すことが出来る、実にロマンチックなレストランだ。傍から見たらラブラブなカップルなのだろうが、この二人は違う。
ロマンのかけらも感じない会話をしていた。
「さて本題です。突入は明日の深夜です。以上。解散」
「了解。いい加減ぶっ飛ばすぞ」
「最初の触りくらいふざけてもいいじゃないですか。アメリカンジョークですよ、アメリカンジョーク」
「ここはローマだ! しかも目的地はバチカン! アメリカンの欠片もありません!古代ローマをバカにすんな!」
「ナイス突っ込み! よく気付いてくれました。満足したので本当に本題に入りましょう」
 今の突っ込みでよかったんだ、ハードル低いなと思ったことは口には出さずにアリシアの言葉に耳を傾けた。
「バチカン宮殿は、ここから三~四キロ離れた場所にあります。コンチリアツィオーネ通りを直進し、ピオXII広場を抜けてバチカンに入国したら、だいたい三百フィートも歩けば着きますね」
「フィートとかはよく分からないけど、近いってのだけは分かった。で、アリシアの闇に紛れる能力でバチカン宮殿に侵入するわけだな」
「そうなりますね。とりあえず闇に紛れて侵入すれば、警備員の目に留まることは、ほぼありません」
しかし・・・・・・と続けアリシアは思案顔へ変化していく。
「前も言いましたがこれは侵入する、ということだけです。その後、何をどうするかは全く見当もつきません」
そうなのだ。問題はここから。侵入すると言ってもバチカン宮殿内部の情報は皆無に等しい。もし、今から情報収集するとしても当夜は命を狙われる身。そんなことをしていたらすぐに見つかり殺されるだろう。
「作戦なんてないな・・・・・・思いつかない。情報が少なすぎるんだ」
「当たって砕けろ、という所ですかね」
「そんな所だな・・・・・・ん? ちょっと待てよ。バチカン総本部の中にアリシアの上司的な人はいないのか? もしいるんだったら、俺だけを闇状態にしてアリシアが何かしら上司から聞き出すとか」
「いることはいます。しかし、時間が時間ですし宮殿の何処にいるか見当もつきません。わたしも内部がどうなっているとかは分からないので。しかも、わたし達と言えどバチカン宮殿に入ることは固く禁じられています」
これでは当夜の思いついた策は使えない。万策尽きる・・・・・・というよりも策など最初からないのかもしれない。
「・・・・・・やっぱり当って砕けるか。砕けるって言っても死ねないけどな」
「砕けずに当たりましょう」
「それしかねぇか・・・・・・んじゃ明日までゆっくり休もうぜ」
「負けが決まった戦場に赴く戦士の気分です」
「俺もだよ。けど、負けが決まった戦いなんてこの世にはないって。もしそうだとしても俺がアリシアを死なせない。だから明日は勝ちに行こうぜ」
ふいにアリシアの顔がキョトンとした表情をした。
「なんか珍しく男らしいですね」
「たまにはな。男らしいところも見せないと」
アリシアは、頬を桃色に染め俯いた。
「んじゃ部屋に戻るか」
「はい、戻りましょう」
そして二人は明日の戦いに勝利を誓いあい部屋に戻っていった。


当夜は目を覚ました。
視界は暗闇に覆われていて何も見ることはできない。『何も』だ。感覚的には何かで目を覆われていている感じだ。
そして身体の見動きも封じられていた。手足を縛られ、椅子に座っているような状態。さながらヨーロッパの死刑囚だ。
(何がどうなってる・・・・・・昨日はアリシアと話した後、部屋に戻って寝たはずだ)
当夜の思考が目場ぐるしく加速する。不思議と気持ちは冷静だった。
(可能性として一番大きいのは誘拐か・・・・・・しかし、奴らは俺を殺そうとしている。なぜ、誘拐だけでとどめているんだ? 俺だけが知っている重要な秘密もない。そこがひっかるな。手足と視界を塞ぎ、口を塞いでいないということは、やっぱり何かを聞き出そうとしているのか・・・・・・だとしたらここはバチカン宮殿? アリシアは? アリシアは無事なんだろうか)
と、そこへ当夜が目を覚ますタイミングを知っていたのかのようにドアが開かれる音がした。そして、当夜の方向へと足音が近づいていく。
(この部屋はモニタリングされているのか・・・・・・? 足音は二人分・・・・・・大柄な人と小柄な人だな。呼吸は乱れていない・・・・・・いや、小柄な方の呼吸が乱れているな。何処か落ち着きがない。そして、こっちは男ではないな)
当夜は、冷静に聴覚に意識を集中させ状況を分析した。
「神谷当夜。気分はどうだい?」
そこへ、年を幾分か隔てた声が響いた。
「・・・・・・いいわけないだろ。この上ない最悪の目覚めだよ」
「ははは、そうかい。それはそうだな。君はこれから死ぬんだから」
その男は、当夜に死の宣告をした。しかし、当夜の心は乱れなかった。
(この言い方だとすぐには殺しはしないだろう。となれば、相手を怒らせずに何かしら聞き出すのが賢明か・・・・・・これで答えたら俺と話す気があるってことだからな。女の方はひとまず置いておくか)
当夜は、そこまで考えをまとめ、作戦を決行した。
「まず、俺が命を狙われる意味はなんなんだ?」
「まぁ、気になるのが当たり前だよ・・・・・・しかし今から死にに行く者にわざわざ言う必要もないだろう。この考えは我が教えに反しているが、今は仕方がない」
当夜は、確信した。すぐに自分のことを殺すことはないだろうと。
(でも、このままだらだらと話していても仕方がない・・・・・・カマかけてみるか、ここは一発賭けに出よう)
今の当夜にだらだら話している余裕はない。何よりアリシアのことも心配なのだ。
「神か、ラッパが世界をどうにかするとかいう話がしたいのか?」
当夜は、日本でアリシアから聞いた単語をくっつけて男に放った。
瞬間、男の呼吸が完全に乱れるのを当夜は感じた。賭けは成功したのだ。当夜は、女の方の呼吸も大きく乱れたのを感じた。
「ッッッッッ! 何故それを? アリシア・オースティンから聞いたのか?」
男がそう言った時、女の呼吸が最大限まで乱れた。
――まさかっ!
作品名:メギドの丘 三章 作家名:たし