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メギドの丘 二章

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「見惚れてるのも仕方ないことだわ。わたしをなめてたのね。大人をなめないことね」
そこで佐江は、奏、朔夜、結のことを品定めするかのように、じっと見つめ一言呟いた。
 「弱いわね、あなたたちの水着も用意してあるわ」
 「「え?」」
 「来なさい」
 「「え―――――――!」」
 佐江が、突然の出来事に理解できない様子の奏、朔夜と無表情で興味なさそうな結を強引にホテルに連れ帰った。



 「早く来ないかなぁ! 当夜、 俺・・・・・・もう発狂しちゃいそうです」
 「真弥落ち着け。楽しみに待てば待った分だけ感動はおおきくなるんだよ」
 「でもよ。止まらないんだよ。このドキドキとトキメキが!」
 「分かる・・・・・・分かるよ、真弥。けど、今は耐えるんだ」
 佐江が三人を連れて行ってから約十五分が経過していた。佐江の言葉からすると、奏たちの水着を用意してあるとのこと。当夜と真弥的には、三人の水着は周りの水着美女からすると普通だった。そこへ現れた佐江は完璧。その佐江が三人をプロデュースするのだ。当夜と真弥は、十五分間期待に胸を躍らせていた。もう胸が躍りすぎだった。
 「待たせたわね」
 当夜と真弥が期待に胸を躍らせる中、神(佐江)の声が響いた。
 二人は声を聞いた瞬間、反射的に後ろを振り向くことをしなかった。もはや本能の世界かもしれない。
 急に二人に緊張感が走り、ゆっくりと時間をかけて、振り向いた。
 「・・・・・・っ」
 二人は、目の前の光景に文字通り息を飲んだ。
 
 奏では、小花プリントの可愛らしくも大人っぽい水着に身を包んでいた。水着のフリルスカートが更に女の子らしさを際立たせていた。

 朔夜は、カラフルなマルチチェック時の水着に身を包み、同じ柄のシュシュでポニーテールに髪をまとめ、元気な女の子という感じだ。

 最後に結は、海の定番ともいえるマリンボーダーの水着に身を包み、普段のノーメイク無表情ではなくメイクも施してあるので、普段から想像しがたい魅力ある女の子に仕上がっていた。

 「ここまで変わるものなのか」
 当夜は衝撃を覚えた。
 しかし、すぐに考えを改めた。もともと、この三人は傍から見たら美少女に分類されるのだ。でも、普段は職業柄、化粧などはしていない。それが今はどうだ。佐江がメイクを施し、絶世の美少女たちに仕上がっている。アイドルも顔負けだ。
 「当夜、俺は今、物凄く感動しているよ。そりゃもう今、世界が崩壊しても後悔しないくらいに」
 真弥は目に涙を浮かべながら歓喜の声を上げていた。
「なんか、恥ずかしいわね。一回着替えてお披露目みたいなことするのって。しかも、化粧なんかしちゃってさ」
 珍しく奏が、恥じらいの表情を浮かべ頬を朱に染めていた。
 「なんつーかさ、似合ってるよ」
 そんな奏の様子を見て、当夜は言った。
 「ありがと」
 奏は、当夜の言葉に対し一言だけボソッと返した。
 「もおぉぉ! 何いい雰囲気なっちゃってるんですかっ。お二人の時だけにしてください。ちょっと嫉妬しちゃいます」
 「若いわね~。いいわよ、青春っぽくて」
 「え? 当夜、抜け駆け? 信じてたのに・・・・・・信じ・・・・・・て・・・・・・た・・・・・・のに」
 「ちがっ、違うわよ!」
 口々に冷やかされ奏が顔を沸騰させながら否定した。
 「そんなんじゃねぇよ! ほら早く遊び行こうぜ!」
 「はいはい。いいわね、若いって・・・・・・あれ? 結ちゃんと涼くんは?」
当夜は佐江の言葉にある方向を指さした。
 そこには、二人で協力しながら砂の芸術を披露する二人の若者の姿があった。
結と涼だった。
「そっとしておきますか」
当夜がそう言い、ビーチボール、浮き輪などを持ち、海へと駆けだした。



夜九時。海ではしゃぎ、浜でビーチバレーをし、疲労困憊の身体を温泉と沖縄料理で存分に癒した当夜は一人、ホテルの部屋で考え事をしていた。
約二週間前、当夜には生きる意味も希望も何もなかった。廃人だったのだ。出来るだけ周囲との接触を避けていた。グラシャ=ラボラス戦の時には死のうとも思った。いや、死のうとしたのだ。そこを奏に助けられた。そこで見た奏での腕の真実。考えさせられた奏の言葉。部屋に戻ってからの奏との会話。今、当夜がこうしていられるのは全て奏のおかげだった。奏がいなきゃ当夜はここにいなかった。
当夜は、もういちどゆっくり奏と話がしたかったのだ。しかし、最近忙しく二人で話す機会がなかった。そして、今こそがゆっくり話す絶好の機会だと思ったのだ。
「あああああ。でも、旅行中に話すことかなぁ」
当夜を今、悩ませている要因はこれだ。
せっかくの仕事とかけ離れた楽しい旅行中に話す内容なのか、と。そして何より時間が経ち過ぎている。いきなり話されても奏もびっくりするだろう。時と場合が全く合っていなかった。
しかし、当夜は自分の気持ちを押さえつけることが出来なかった。
 「ああああああ。当たって砕けろだ! 行こう!」
 なんか告白しに行く人みたいだな、と当夜は思いながら奏の部屋へ向かった。
 ホテルの部屋割りは男子が六階、女子が八階となっていた。
 なので、奏の部屋までには少しだけだが時間があるので、その時間を利用し頭の中で話す内容を整理した。
 そんなこんなしていると、気付いたら奏の部屋の前に着いていた。
 空調が効いているのにもかかわらず、汗ばむ手を握り締め、扉をインターホンを鳴らした。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 しかし、返事はない。
 念のため、当夜はもう一度インターホン鳴らしたが返事は返ってこなかった。
 「いないのか」
 もしかしたら寝てるかもしれないと思いつつも、当夜はとりあえず奏を探すことにした。
 「とりあえず、海に行ってみて、いなかったら部屋に戻るか」
 当夜はそう思い海に行くことにした。


 夜の海は、昼の海とは逆の表情を見せていた。夜の海は物静かで波の音だけが辺りに響いていた。
 浜辺には一人の女の子が体育座りをしていた。
 奏だ。
 「風邪ひくぞ」
 当夜は、海に行く前に部屋にいったん戻り、奏がいた時の為に羽織れるようなものを一着持ってきていた。
 案の定、半袖一枚だった奏の肩にそっとかけた。
 「当夜くん?」
 奏は、目を大きく見開き少し驚いた様子だった。
 しかし、すぐに顔を綻ばせた。
 「ありがと」
 そんな奏の様子が当夜には、どこかいつもの奏と違って見えた。
 「隣、座っていい?」
 「いいよ」
 当夜は、そっと奏の隣に腰掛けた。
 潮風と奏の優しい香りが当夜を包み、当夜の心を安心させた。
 「急にどうしたの?」
 「最近、奏とゆっくり話す時間なかったから、ゆっくり話したいと思ってさ。部屋に行ったんだけど、いなかったから、海かなって思って」
 「そっか。最近忙しかったもんね」
 「本当最近忙しかったよな」
 「ねー。もう疲れちゃったよ」
 そう言って奏は、クスクスと笑い始めた。
 その笑顔を少し眺めてから、当夜は本題に入った。
 「急に話変わるんだけど、あの時はありがとな」
作品名:メギドの丘 二章 作家名:たし