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メギドの丘 一章

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左足で踏み込み、体は当夜に対して右斜めに進める。この勢いを利用し手を伸ばし長剣に絡み合う炎と共に『突き』を繰り出した。
周囲の空気を漠散させる轟音を聞きながら、当夜はスローモーションの世界で沢山のことを考えた。

家族のこと。
友達のこと。
将来のこと。
学校のこと。
そして、今現在のこと。

時間軸がずれた感覚のまま、当夜は目の前に長剣の切っ先が自らの体を突きささんとしているのを見た。
当夜は熱さを感じないのは、皮膚に熱さを感じさせないくらい剣の速さが凄まじいのかな、と考え、ていうか案外死ぬ寸前って冷静なんだと感じた。
――ははは、短かったな、俺の人生・・・
当夜は目をつむった。

その時、

氷をお湯に投げ入れ、ひび割れる音を何倍にも何十倍にも膨れ上がらせた音が当夜の鼓膜を襲った。
もちろん当夜は、条件反射に則り目を見開く。
目の前に広がっていたのは、巨人を氷漬けにした氷塊。
いや、空気そのものが凍りついた感じだ。
凍りついた空気は、さっきまでこの身を焼かんとする灼熱に晒されていた当夜の体を冷やしてくれた。
 今度は何が起きたんだ・・・・そう考えながらも当夜は、やはり動くことはできなかった。


「君!早くそこから逃げて!その凍結はあんまり持たないわ!」
「ちょ!待ってよ!今回のかなりでかくない!?」
「逃げて」
「あぁマジ面倒くせぇなぁ。早く片付けようぜぇ」

後ろから急に声がして、当夜はまたもや条件反射に則り後ろを振り向いた。
いつからいたのか五メートル程先に少女が二人、少年が二人が立っていた。
「・・・・・・は?」
 当夜は思わず、きょとんと眼を点にし、すっとんきょうな返事を返してしまった。
 「だから早く逃げてって言ってるでしょ!」
 一人の女の子が大声で叫びながら、必死の顔で五メートルという距離を一瞬で縮め、当夜の手を引っ張りながら当夜を無理矢理起き上がらせ、また来た道へと駆けだした。
 髪は栗毛色の鎖骨にかかるセミロング。必死な顔をしていても輝いている宝石のような瞳。しかし、黒を基調としたミリタリージャケットにカーゴパンツという女の子らしくない服装をしていた。
 「なぁ、本当に・・・・」
 この状況って何? と当夜が続けようとした瞬間背後から高温まで熱した大量の鉄の塊にいきなりバケツの水をかけたような音がした。
そして、
 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」
巨人が言葉にならない大地を揺るがすような咆哮をあげた。
 手を引っ張っている女の子が巨人を一瞥し、ちっ、と舌打ちをした。
 「やっべーよ、奏!凍結溶けちゃったじゃん!」
 青髪で、きりっとした目をした、見るからにバカそうな男が叫ぶ。奏と呼ばれた女の子が、今、当夜の手を引っ張っている女の子が奏だ。
 「真弥、本当うっさい。少し黙ってて」
 真弥と呼ばれた少年は、ぶつくさと呟きつつも大人しくなった。
「君、とりあえずここにいて。事情は後で説明するから絶対いなくならないでね」
奏は仲間のいた位置に戻ると先程力を入れた手を、今度は逆に力を緩め、手を離した。
当夜が言葉を返す暇もなく奏では話を続けた。
「涼くん、結ちゃん。この人のこと頼める?」
奏は、限りなく白に近い金髪で、くまがかっている目をした見るからに柄の悪い男と、
鎖骨より少し長めの黒髪で、表情を無表情に保ったままの少女に話しかけた。
「あぁ、めんどくせぇな。つーかよぉ、あの巨人の腕見てみろ。紋章入ってんぞ」
「精霊ね」
涼、結と呼ばれた少年少女が巨人を見据えながら言った。
 「紋章・・・。本当だ。精霊が出てくるなんて初めてね」
 結がそう答え、強張った表情を浮かべた、その時。

 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
 
巨人がもう一度咆哮をあげた。
 その咆哮と同時に巨人を取り巻く炎がゴオッと音を立て、より一層勢いを増した。
 当夜はあまりの熱気で目が急速に乾燥していく感じがした。
完全に身体に力が入らなくなくなり立つことさえ叶わなくなっていた。
そんな当夜を無視し、巨人がまた構えを取った。
両手で長剣の柄を握り、両足を肩幅に開き、どしっと重心を落とす。そして最後に腰を捻ると同時に長剣を振りかぶり力をためる。
「おいおいおい!でかきの来るんじゃないの!? 奏、凍結しないと!」
「さっきからやろうとしてるわよ!あいつの周りの熱量が凄すぎて凍結が出来ないのよ!」
「マジかよ!?んじゃ俺が壁作れるくらいの空気中の水分を集めるから!」
「最初っからやれよ。使えねぇな」
「遅すぎ」
  涼と結の冷酷なツッコミを受け、なんで俺だけと呟きながら真弥は目を閉じ、右手を前に張り手をするように突きだした。
すき間風に似た音があたりに響き渡り、徐々に一か所に音が集まり、消えた。
「奏!オッケー!」
音が止んだのを合図に真弥が叫んだ。
「了解っ!」
その言葉と同時に巨人が長剣を横一文字に薙ぎ払う。
長剣の動きに合わせて炎が辺りの酸素を燃焼し、雑木を焼き払い、当夜たちの方へと津波の迫りくる。
炎の津波が当夜たちを飲み込もうとした時。

――キィィィン

涼やかな音色が辺りを包み込み当夜たちを囲むように氷でできた壁が突如出現した。

炎と氷の衝突。

熱と冷の激突。

炎の津波が氷の壁をいとも簡単に飲み込んだ。
ジュウォ! と音を立て炎が氷の壁を徐々に溶かし始める。
「まだまだぁ!」
奏が気勢の乗った声を出し右手を前に突きだす。
すると、シャボン玉を凍らせたような泡がいくつも出現し、氷の壁に幾重にも重なり合う。
空気を含んだ氷が断熱作用を引き起こし必死に炎の猛攻に耐える。
氷が溶け、水分が急速に蒸発していく音が辺りに響き渡る。しかし、水分が蒸発した分、氷の泡がまた増える。この過程を幾度となく繰り返す。
当夜は、この氷の泡を作りだしているのは奏でだと理解した。原理や理屈などは全く分からない。しかし、先程の会話、一連の流れで理解したのだ。
 「お前ら・・・・・・何者なんだよ」
 当夜は、生と死の狭間の中で思わず聞いていた。
 「ごめん、私たちは特殊な能力を使えるとしか今は言えない!」
 奏では、額に一滴の汗を垂らしながら早口で答えた。周りの氷の壁で周りの気温はある程度は下がっている。絶対的な集中力を維持し、極限の状態で冷や汗をかいているのだ。
真弥は相変わらず落ち着きがなく、涼はイラついた様子を保ち、結は沈黙を貫き通す。

炎の津波が引いていく。
氷の壁が消えていく。
炎と氷の衝突が終わったのだ。

自然と当夜の瞳孔開く。
公園の七割以上が炎の海と化していた。
雑木は燃え、池の水は最初から水が溜まっていなかったのかのように蒸発し、空気を散りゆく花びらのように舞い落ちる火の粉が焼き切る。
「公園が・・・」
当夜は、この今だかつて巡り合ったことのない惨状に、ごくり、と喉を鳴らし生唾を飲んだ。
「ちょっと、こりゃさすがにヤバイ感じだね、絶体絶命って感じ」
さすがの真弥も、さっきまでとは百八十度反転し緊張感を全面的に押し出した。
「精霊の力」
結は表情には出していないが、その口調が内心の緊張感を表していた。
「めんどくせぇな、こいつはぁ」
作品名:メギドの丘 一章 作家名:たし