君に追いつきたい
「何ですか」
「えっと、君は小学生かな」
「はい。小学五年です」
「あら、五年生」女性は少し驚いたような顔をして続けた。「今日、ここに引っ越してきた水野です。この子も君と同じ小学五年生なの。よかったら、仲良くしてあげて」
ニッコリと微笑む女性の横で、ノッポの少女も照れたように笑う。だが、今度は良一が驚かされた。
「えっと、小学……五年生?」
「うん。水野ナオです。これからよろしくね」
「あ、朝日良一です。こちらこそ、よろしく」
まさか彼女――水野ナオが自分と同い年であるとは、思いもしなかった。これだけ大きくて、これだけ大人っぽくて、そしてこれだけ可愛い。そんな彼女と、これから毎日一緒に学校へ通うのだろうか。全く想像がつかない。
そのとき、良一は再び高校野球のことを思い出した。部屋を出てから、もう何分も経っている。高校野球は試合の進行が早いため、かなり進んでしまっているのではないか。早く部屋に戻らねばならない。
「これからよろしくお願いします」
良一は改めて頭を下げると、小走りでエレベーターへ向かった。
中に入り、ナオの顔を思い浮かべる。自分のクラスに転入してくれればありがたい。
――って、何を考えているんだ僕は……
会ったばかりである女子の顔を思い浮かべるなんて、変態のやることだと思った。自分はそうではない。
額から汗が流れる。これはおそらく、暑いからなのだろう。
良一はブンブンと頭を振ると、四階に上がるボタンを押した。
これが、朝日良一と水野奈央、二人にとって最初の出会いだった。