【完】恋愛症候群【過去作】
一歩進んで二歩下がる
なんで
なんでお前らが楽しそうにしてんだよ。
俺の気持ちわかってんだろ?
ふざけるな。
この居場所が窮屈過ぎる。
北条の(これでも薄いんだろうが)化粧も、むせかえるような香水のニオイも。
手作りの弁当なんて要らない。
俺が欲しいのは千歳だけ。
千歳が俺に笑ってくれなきゃ意味が無いんだよ。千歳が俺に話かけてくれなきゃ意味が無いんだよ。
『失ってからわかる有り難み』とでも言うのか?昔散々先公に言われたウザイ説教。その通りだった。
綺麗さなんて要らない。
千歳がいい。そのままの千歳が、いい。
……待ってるだけじゃ駄目だ。
俺がはじめないといけないんだ。
「北条、ごめん」
北条の手作りらしい弁当。
全部平らげたそれを包み、彼女に渡す。
「俺、やっぱりお前とは付き合えない」
『ごちそうさま』と言うと、北条は綺麗な顔を歪め、悲しそうに涙を堪えて、『食べてくれてありがとう』と言ってから自分のクラスへと去っていった。
ゴメン、北条。お前には俺なんかよりもっと良い男がいるから、なんてありきたりな事を頭の隅に浮かべた。
ざわつく教室。
目指すは、今の出来事にも気づいていない彼女の元。
菓子パンを頬張っていたタカシが、少し嬉しそうに顔を明るくした。
作品名:【完】恋愛症候群【過去作】 作家名:木白