【完】恋愛症候群【過去作】
僕らはただ、不器用だっただけ
想いを告げあってからは、時間の流れが凄く緩やかで。
それを一応アキラに報告すると、『なんでお前らは二人揃って俺にノロケるんだよ』と言われた。
タカシには、二人で公園で日向ぼっこをしていた時に遭遇し、『なんか、青春とか結婚式とか通りこして熟年夫婦みたいだ』と言われた。
仕方ないじゃない。
二人でいるだけで心が満たされるんだよ。凄く幸せ、なんだ。
「二人はさーぁ、いつ、結婚式やんの?」
二人が座る隣のベンチに腰掛け、『呼べよー!俺が司会しちゃる!』なんて、オレンジジュースを飲みながら言うタカシに、秋と千歳は顔を見合わせた。
「大学卒業して、仕事はじめて、給料が安定してからだから……」
「最低6年ぐらい…?」
「長ッ!なにそれ。なんでそんなに!?」
「「焦ると、ねえ……」」
ガビーン!と口で言うタカシを見て、二人で笑った。
「あれ、何やってんの、お前ら」
「千歳さん!」
ぶらりと現れたのは、アキラと、
「サキ…?」
千歳の熱狂的な後輩・サキ。
「なんだ。アキラがノロケる彼女ってサキだったんだ」
「あれ。言ってなかったっけ?」
「千歳さぁーん!酷いんですよアキラ。あと3年は結婚出来ないって言うんです」
そう言いながら千歳に泣き(抱き)つくサキに、アキラ以外の3人は『あー…』と言った。
「大丈夫だよサキちゃん。俺と千歳、あと6年は結婚式あげないから」
「えっ!?なんでですか千歳さん!」
「いやほら、ちゃんとした老後を過ごしたいしね?」
「老後、ですか…」
「10年たっても20年たっても、もっとたっても。こうやってゆっくりと過ごして生きたいんだ。ね、秋」
「うん。最高だね」
もう夫婦のようなオーラをかもしだす二人を見て、サキは『素敵ですねぇ』と言った。
「でもでもサキちゃん?この二人の恋愛論は独特だよ?」
「いいじゃないですか。千歳さんらしくて!」
タカシの言葉をも一刀両断。
いつの間にかアキラはあいたベンチに座っていて、その光景を目を細め眺めていた。
「思うんだけどね、アキラ」
タカシとサキが何かを言い合い、千歳がそれをフォローする。
そんな横で、シュウはアキラに声をかけた。
「君たち、凄い不器用だった」
「は?」
「……ううん。俺ら全員、不器用だったんだ」
3人を眺めて言う秋を見て、アキラは『ふ…』と笑った。
「そうだな。俺も千歳も、お前も」
「タカシも、ね」
愛が無きゃ生きていけない。生きていけないけれど、生きてゆける。
「俺らはずっと、恋愛をし続けるんだ。ずっと」
まるで病気みたい。
浮かれて、沈んで、ドキドキしたり幸せになったり。
「病名は?」
「「恋愛症候群」」
会話を聞いていたらしい千歳と、秋の声が重なった。
「よーし!このまま皆で飯食いに行くぞ!てか俺に奢って下さい!」
タカシが勢い良く立ち上がる。
自然に手を繋いだ千歳と秋を見て、アキラは目を細めた。
「千歳さんの手は渡さないんだからーっ!」
あいた千歳の左手をサキが掴み、そのサキの左手をアキラが。
一人残ったタカシは、サキと千歳の間に割り込み、千歳の手をとった。
「あー!!」
「へっへーんだ!彼女いない歴イコール歳の数の俺に少しは優しくしてくれたって良いだろ!」
「むかつくー!」
「サキ、サキ」
アキラはサキの手をギュッと握った。
「あいつは哀しい男なんだよ」
「うわアキラ氏、なんか今のグサッときたよ!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩く。
千歳はふ、と微笑んだ。
「千歳?」
「…いや、」
好きとか嫌いとか、
それだけで区別なんか出来ない。
悩んで、悩んで、こんな風に馬鹿騒ぎしたり。
「悪くはないよね。こんな日も」
そう言って晴れやかに見上げる彼女の口に、そっと一つ、愛しい想いをこめてキスをした。
僕らはただ、
不器用だっただけ
ただ、それだけ
恋愛症候群・終わり
作品名:【完】恋愛症候群【過去作】 作家名:木白