千の夜 一の夢
カノンは腰を上げ、窓辺へと歩いていった。昔を思い出しているのだろうか。ぼんやりと夜を照らす月を見上げている姿は、見とれてしまうくらいに美しかった。
「一国の王女が今更足掻いても、物事を止めること等無理だ。ノエルは立場をよく理解しているはずだ」
「秘法を渡したことで、多くの人が酷い目にあうとわかっていて渡すかしら」
「わかっていても、そうするしかないんだよ。私たちにはね。もう帰る国などない私たちは誰かの庇護なしには生きてはいけない」
悲しげに告げたカノンに、アデルは強く意見をいえなかった。
十年間、どのような思いをして生きていたのか、アデルには想像できない。
帰る場所を失った王子たちは、どんなに苦しんだのだろう。どんなに悲しんだのだろう。
振り返ったカノンは、椅子の上に掛けていた上着を取った。
「そこの壁に耳を当てていたら、何か聞こえるかもしれないね」
上着を羽織ったカノンが、アデルに告げると部屋を出て行った。
この壁の向こうで、二人の王子は会うのだろう。ノエルはいったいどのような選択をするのだろう。決して間違った選択をしないようにと祈りながらアデルは壁にそっと耳をあてた。