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千の夜 一の夢

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 彼女と仲良くなって、共に亡国の王子たちを説得させる方法があったが、これでは無理だ。彼女の嫉妬心はやっかいだ。必ず疑ってくるだろう。
 マルガレーテと話していて気づいたことがある。それを知っているかいないかでは大きく違う。
 一つは、ノエルが生きていること。
 もう一つは、カノンの背にある秘法を知らないことだ。

 カノンとマルガレーテは関係を持っている。関係があるからこそ、アデルを見下していた。だが、彼の心を掴みきれていないから不安になっている。

 もし、わたくしより、美しい姫君が現れたら。
 もし、わたくしより、若い姫君があらわれたら。

 亡命中のカノンに会える王女はマルガレーテ以外いない。だからこそ安心していられた。だが、田舎国の王女――カノンの弟の元婚約者がやってくると知り、カノンを奪われるかもしれないとさぞかし動揺しただろう。

 カノンはマルガレーテに、背にある古の秘法を見られていないのだろうか。
 それとも、通常では見えないものなのだろうか。

 そもそも、カノンとノエルの背に古の秘法を移したのは誰なのか。
 そのようなことをできるのは、フルハの魔術師ではないだろうか。
 フルハの魔術師は巨人以外に何かをイニス王国に残したのだろうか。

 聞いてみたい。カノンとノエルに。
 ノエルは今、王宮にいるかは不明だが、カノンは必ずいる。
 王宮は三階建てだ。
 案内されたのは、一階と二階のみ。まだ上がっていない三階に、カノンはいるはずだ。

 十年の長き亡命生活で、カノンは何を思い続けていたのか。
 マルガレーテを虜にして、何を考えているのか。

 ふと浮かんだ恐ろしい考えに、アデルは身震いがした。

 美しき死神は、カノンかもしれない。継ぐべき国を失った皇太子の悲しみと怒りはいかなるものだろうか。
 背にあるものが大陸の全土を焦土と化した炎の巨人を復活させるものだと知っているのなら、祖国奪還のために使用しないだろうか。
 それに、ノエルはいっていなかったか。

 ――強引ゆえに、カノンに不満を抱く者たちがいたと。

 カノンは何を強引に進めたのだろう。亡き王国で。


作品名:千の夜 一の夢 作家名:加味恋