連載 たけこさん (終)
6話 夫婦喧嘩
岳子は夫の富士夫と口喧嘩をしていた。
それは、ほんの些細なことから始まったのである。
「なんやて、この ほととぎす!」
「ほととぎす、てなんや」
「ほととぎすはなんて鳴きます?」
「テッペンカケタカ・・・あっ、なにぬかす!」
富士夫は、ついと手を頭頂部にあてた。
「ほんまに、口だけは達者なんやから。見合いの時に騙されたワシがあほやったわ」
「なにを騙されたんです?」
「『私、三味線を少し弾きますねん』て、しおらしいゆうとったやないか!」
「そうですよ、三味線、習い始めたとこでしたんや」
「三味線はうまぁならんわ、うまなるんは口三味線ばかり、うるさいうるさい」
「あんたかて『太鼓打ってましてん』ゆうさかい、まァ男らしい、思うてたら、小学校の時の運動会の合図で『ドン』と一発たたいてただけやて、あほらし、あんたは太鼓持ちですやろ、会社の上役におべっかばかり言う・・・」
「おまえが吹くのはホラばかり、あぁ音楽一家か、太鼓持ち・ホラ吹き・三味線ひき・・・と。のう、ゴン太」
名前を呼ばれたパグのゴン太は、短い尻尾を小刻みに揺らして富士夫の膝に乗り、顔を舐め出した。
「キチュちてくれまちゅか・・・おお、おまえだけやなぁ、愛ちてまちゅよ」
と抱きしめた。
「おお気持ち悪」
「それにしても、やっぱりおまえに似てきたんと ちゃうか」
両手でゴン太の脇下を持ち手を差し伸ばして、岳子と見比べた。
またもや振り出しに戻ってしまったのだ。
(夫婦喧嘩は犬も)クワンクワンと自分の場所に駆け戻ったゴン太。
「ほんの些細なこと、やない!」
と宙(作者)を睨みつける岳子。
作品名:連載 たけこさん (終) 作家名:健忘真実