連載 たけこさん (終)
4話 女もつらい
「海老出さんのご主人、まだ東京にいてはるの?」
「まだ数年は東京勤務やろうねぇ」
「息子さんも家出てはるんやろ、気楽でしょう」
「まぁ、犬の世話は全部ひとりでしなあかんのですけどね。山谷さんはご主人が買い物や犬の散歩してはるんですね、よくお会いしますよ」
「毎日家でゴロゴロしてたら生活習慣病に引っ掛かるよ、って脅したんですよ」
「一緒に散歩しはったらいいのに、山谷さんも引っ掛か・・・」
ボランティアの“子育てサロン”の受付を並んでしていた岳子の腹部を見て、海老出鯛子は口をつぐんだ。岳子の腹部は言われるまでもなく、外見から重なり具合がよく分かった。
「海老出さんのご主人はたまに帰って来はるんでしょ、いろいろサービスしてもらってるんですか?」
と、渡舟。
「会社でね、どんだけ奥さん孝行してるか、時々自慢し合ってるらしいんですけどね。映画に誘ったとか、旅行に連れて行ったとか」
「よろしいやないの」
「ところがね、たいがいは有難迷惑、的が外れてるんですよ」
「へえ」
「寝るときになって、饅頭やケーキを買(こ)うて帰って来るとか、あっ、饅頭が好きなんですよ私」
「寝る前にそんなん食べたら、確実に太ります」
掃留鶴子は今日の準備をしながら、聞き耳を立てていたようである。
「そうなんよ、それで食べへんかったら『せっかく買うてきたったのに』てむくれるんよ」
岳子は、しょっちゅう寝る前に饅頭を食べてることを思っていた。
そうか、それを辞めたらいいんや。
鯛子は続けた。
「旅行に行ったら車で移動ばっかり。せっかくの旅行、現地でゆっくりしたいのにねぇ」
「うちはね、だんなとよくバスでグルメツァーに行くんですよ」
とお腹をなでながら岳子。
「そろそろまったけ狩りや、カニ食べ放題のツァーが待ち遠しいわぁ」
「グルメツァーゆうたら、アンタやっぱり上海でっせ。あっ、おはようございます、遅なってすみません。万博もそろそろ終わりやから空いてきますやろ、そこが狙い目ですわ。……(ぐだぐだ、ぺちゃくちゃ)……でね、今やグロバリゼーションでっせ」
みんなに無視された四面(よつも)そのかは手提げを持ったまま、渡舟にくっついて喋り続けていた。
作品名:連載 たけこさん (終) 作家名:健忘真実