連載 たけこさん (終)
2話 愉快な仲間
岳子が週1回のフラダンスを習い始めたのは、地元では有名な自動車製造工場で働いていた富士夫が、退職して家にいる日々が始まってからである。しかし、どうも性に合わないと自覚して辞めてしまった。
今は、ボランティア活動にも精を出していた。
乳幼児とお母さんの集う場所を月2回提供している“子育てサロン”がそうである。
「犬を飼い始めたんですよ。もう年やから犬より先に死んだらどうすんのん、ゆうてたんですけどね」
「へぇ、どんな種類ですか?」
「パグ、ゴン太って名前付けましたんよ」
岳子は夫の富士夫が、犬のシェルターへ行って選んできた犬がかわいくて仕方がない。2歳ぐらいの犬である。
「うちは小太郎というゴールデン・レトリバーを飼ってるんですよ」
海老出鯛子と一緒に受付に座って、犬談義を始めていた。
海老出鯛子は、化粧気のないアウトドア大好き人間で、小太郎をしょっちゅうどこかに連れて行っている。夏は海へ行き犬と一緒に泳ぎ、冬は雪山で犬が雪の中ではしゃぎ回っているのを見るのが楽しくて、嬉しくなるという。
「ゴールデンは遊ぶのがホントに好き。だいたい飼い主は、自分の趣味にあった犬か、家族のだれかに似た犬を選びますからね」
「パグの前は、ボクサーを飼ってたんですよ」
「・・・・・・・・・」
海老出鯛子は岳子を見て、沈黙してしまった。
岳子は、夫は私に似た犬を選んだのかしら、と思いあぐねた。
「犬が飼い主に顔を似せてくる、ともいいますよ」
同じくボランティアの渡舟である。
海老出鯛子は50代半ば、渡舟は76歳である。
あと、40代の掃留鶴子は、子育てサロンの参加者だったが、子供に手がかからなくなってボランティアとして手伝っている。美人で、おばさんたちのおしゃべりに耳を傾けながらも、テキパキと物事を勧めていた。
「ゴン太君は室内飼いですか?」
「そうですねん、トイレトレーニングがたいへん。小太郎君は?」
「抜け毛がすごいし、わんぱくで何でもかじるんで、外で飼ってます」
「しつけって難しいねぇ」
「しつけるのん大変ですよ、根気と忍耐ですわ」
「ほんとに今どきのお母さんって子供しつけるの大変ですよね。あっ、おはようございます。遅れましてすみません」
と、手提げを持ったまま話に割り込んできたのは、四面(よつも)そのか、70歳。
「何かゆうと虐待や、言われるしね、かといって叱り方も知らんお母さんが多いし……(ぐだぐだ、ぺちゃくちゃ)……で、今やグロバリゼーションでっせ」
話が際限なく続いて、あっちこっちに飛んで、何のことか分からなくなる。
彼女が話し始めると、みんなは自分の持ち場に戻った。が、四面そのかは手の空いた人を見つけては、話し続けるのだった。
岳子の愉快な仲間たちである。
作品名:連載 たけこさん (終) 作家名:健忘真実