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連載 たけこさん (終)

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14話 ダイエット


「ちょっと、ファスナー上げてくれへん」
 岳子は両手を首の後ろにやり、着ているワンピースの左右を持って富士夫に背中を向けた。
 富士夫は左手で左右のファスナーを合わせながら上げようとしたが、上がらない。
「どないしたんや、ワンピースなんかここんとこ着たことないのに。うんっ、アカン上がらんわ」
「やっぱり無理かなぁ。これでもアカンか、フゥ――」
 息を吐きだして横幅を狭めようとしたが、
「アカンもんはアカン。どっか行くんか」
「7月に高校の同窓会があって、これしか着て行くもんがない」
「そら痩せなあかんな、背中に肉が付きすぎてる」
 腹もな、とは胸の内で。


 というわけで、その日から食餌制限が始まった。
「なんでワシまでダイエットやねん」
「ひとり分だけのおかずなんて作られへんやろ、自分で食べへんのに」
 納豆、レタスとトマト、リンゴ、薄揚げとわかめと麩とねぎのみそ汁に白ご飯とたくあんの食卓を眺めて、
「こりゃ手抜き料理ちゃうんかい」
「一緒につきあい〜や。あんたもお腹へこましたほうが、格好ようなるで」
「食事だけとちごて、体動かしたほうがええやろに」
と、冷蔵庫からビール缶を取り出し、お茶代わりにして食べ始めた。

 翌日からは、午前と午後の散歩にそろって出かけた。
 ゴン太は クィーン と富士夫の足にまとわりついている。富士夫はゴン太を抱き上げて歩きだした。

「ちょっと、ゴン太の散歩やろ」
「ゴン太な、ズルして歩かんのや。抱っこして歩いたらぬくいやろ。冬の間そうしてたら癖になりよって」
「それでゴン太も太ってきてたんやな。こらゴン太、一緒に歩こ」

 岳子は両腕を大きく振って歩きだす。富士夫も付いて行こうとゴン太を引っ張って歩いた。ゴン太は立ち止まって臭いをかごうとしつつ、引っ張られながら歩いた。
 40分ほど歩いたろうか。

「フーッ、よう歩いた」
 岳子はコーヒーを沸かし、ビスケットの袋を開けて食べだした。

「なんや、そんなん食べとったらダイエットにならんで」
「これは別腹」


 同窓会の当日岳子は、ウェストがゴム紐になっている黒いダボパンツと、ゆったりしたピンクのチュニックで装った。
「これ安いとこ見つけてん。個性派ファッション」
「・・・・・・気ぃ付けて行っといでや」
 まるで妊婦やな、とは心の中にしまって送り出した。
 
 食餌制限は3日で終わっていた。
 ヤレヤレ。