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連載 たけこさん (終)

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12話 男の料理


 富士夫は公民館で催される月1回の『男のための料理教室』に通っていた。
 包丁の持ち方、米の研ぎ方から始め、今では煮魚や煮込み料理まで一応こなせるようになってきた。
 初めに聞かされていた注意事項がある。

   家庭料理は趣味の料理とは違います。
   覚えたことを奥さんに自慢してはいけません。
   奥さんお得意の料理を作ってはいけません。

               ☆

 岳子は野菜を煮込みながら、キャベツを洗っていた。
 そこへぬっとあらわれた富士夫。鍋の蓋を開けて覗き込む。
「おい、落とし蓋せんでええんか」
「もう味はしみてるから、せんでええんや」
「酒は入れたんか」
「うちでは、そういうんは使いません」
「なんでや、酒入れたらうまなるんやで」
「ほんならいつもまずかったですか、悪うございましたね!」

 さらに何か言おうとした富士夫に、
「もう、うるさい! あっち行っとき。ごちゃごちゃ言われたら鬱陶しいてかなわん」
「なんや、手伝うたろ思て来たのに」
「ほんなら、キャベツ、千切りにしてくれますか」

といったようなことが度々あった。
 

「この肉じゃが、糸コンに味が浸みてないな」
「ちょっと作りすぎて・・・浸みてないとこありましたか」
「肉じゃが作る時はやな、野菜なんかを柔らこうしてから上に肉を広げてのして、そこに砂糖と醤油をかけて蓋しといたら肉の旨味が野菜に浸みて、うまなるねんで」
「・・・・・・」

 自分の知識を披露したくてうずうずしている。
 調子に乗った富士夫、さらに講釈を続けようとしたところで岳子に器を奪われた。

「・・・・・・」
「なんや、まだ食べてるやないか、なに怒ってんねん」
「なんやかんやとうるさい! あんさんに作ってもろうたら高い食材買うて来るわ、キャベツの千切りゆうたらおっきな格子になってるわ、黙ってたけどもう我慢ならん!」
「なに今さらゆうてんねん。そりゃいつのことや」
「女ちゅうもんは、溜まりに溜まってたことが爆発するんです!」


 というわけでその翌日の夕食は、富士夫が自分の得意とするところのカレーライスを作った。

「どや、美味いやろ」
「・・・・・・」
「隠し味にな、コーヒー入れてるんやで」
「・・・・・・」
「チョコレートも入れてな・・・美味いやろ」
「・・・・・・」
「なんかゆうたれや」

 口に運びかけたスプーンを止めて、ジロッと睨んだ岳子。
「いつも私が作ってるのんと、おんなじですやん!」