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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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ワインカラーのラプソディ

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 泣き叫んでも中川の車は待ってくれなかった。
 
 ワイン色に染まった情景の中、弓枝はポツリと一人取り残されてしまった。
 「なんでや、ウチ一人こんなとこで、寂しいやんか……」
 
 と、その時、背後から何者かの声がした。
 「まあな、幽霊は死後7日間、死んだ場所から離れられんというからな……」
 弓枝が振り返ると、そこに二人の老人が立っていた。
 良く見ると老人の背後の風景が透けて見える。
 明らかに、幽霊だった。
 「ヒィ〜!」
 弓枝は思わず後ずさった。
 「なんじゃ、驚くと少しは動けるじゃないか。ワシらの事はな〜んも恐がらんでいい」
 「さよう、唯の幽霊じゃからの。ワシが田代、こっちが三田村じゃ」
 そう言いながら老人達はカッカッカと笑った。
 「ワシらは、昔この村に住んどった住人じゃ」
 「村?」
  弓枝の見たところ村などどこにもなかった。
 「そう村じゃ。ほれ見なされ……」
 
 田代と三田村と名乗る老幽霊は湖の方を指し示した。
 不思議なことに、夜の帳が降りかけた湖の表面が光り出したかと思うと、底が透けて、湖底の村が見えてきたのだった。
「どれ、わしら二人の霊力があれば、あの村におまえさんを連れてってやれるじゃろう」
「さよう、おまえさんの亡骸もそこにあるからの……」
「アッ、でもウチ泳げんし……」
 老人達は有無を言わさず弓枝の手を取ると、湖の中に引き入れた。
 
「ダムができたもんでな。村が沈んだんじゃ……」
「さよう、じゃが、こうして戻ってきた。見てみい美しい村じゃろうが……」
 驚くべきことに、そこには光に満たされた美しい村があった。
 どこかなつかしい、故郷の原風景がそこにあった。
 鳥が飛び、やわらかな木漏れ日の中、縁側では猫が伸びをしている。
 いつのまにか弓枝のまわりに、水はなかった。
 
「おっと、忘れておった」
 田代が空中に浮かぶ、弓枝の亡骸を抱えて降ろした。
「残念ながら、あの体にあんたを戻してやることは出来んがな……ワシらでちゃんと葬ってやるでな……」
 三田村が弓枝を慰めた。

「まあ、あんたもここに住みゃあいい」
 簡単な埋葬をすませた後で田代が言った。
「さよう、都会者にはちと寂しいかもしれんが……。ここにも若い者はおるでの……」