ワインカラーのラプソディ
弓枝は思わず声を上げたが、中川は何も気づかない様子だった。
「いつもおまえは俺の幸せだけを願おとるて、言うてくれてたやろ? そんなら、わかってくれるよな……」
「わかれへ〜ん! なんでそんなもんわからなアカンねん!」
弓枝が中川の耳元で叫んだ。しかし、その叫びすら届かなかった。
「せやけど、おまえは嫉妬深い女やさかい、じゃましかねんやろ?」
中川が弓枝の亡骸をやさしく抱き起してブロックを背負わせた。
「あたりまえや! アンタちょっとアホちゃうか? 誰がニコニコしてられんねん!」
完全に切れた弓枝が、中川の胸倉をつかもうとしたが、その手はスルリと中川の体をすり抜けてしまった。
「おまえにはちょっと世話になったが……」
「ちょっとかい! 今の仕事見つかるまで、ウチがノーパン・メイドやって食べさせてきたんやんか!」
弓枝が泣きながらすがりついても、中川には何も聞こえていなかった。
「まあ、おまえも可哀そうな女やったが……」
そう言いながら中川は弓枝の死体を担ぎあげた。
「あっ、何するんや! ウチの体を!」
「怨むんやないで〜!」
中川は死体を崖に向かって放り投げた。
死体は掴もうとする弓枝の手を通り抜けて、まるでスローモーションのように下の湖に落ちて行った。
「なんちゅう事してくれんね!」
弓枝はほくそ笑みながら「ナマンダブ、ナマンダブ」と手を合わせている中川に突っかかって行った。
髪を引っ掴んだり、その頬を張り飛ばしたりしようとしたのだが、弓枝の腕はすり抜けるだけだった。
その時、湖から?ザブーン″という音と共に水柱があがった。
「あ〜、ウチの体が……」
彼女は力なくその場にへたり込んだ。
「怨んだる、怨んだる! ウチは絶対あんたの事、許さへんで! どこまでも追いかけて破滅に導いたるんや! せやから……」
そう言いながら中川を睨みつけようとした弓枝だったが、中川はさっさと車に乗り込んでいた。
「アッ、待ち、コラ!」
弓枝は走り去ろうとする車にしがみつき、乗り込もうとした。だが……。
「なんでや、なんで行かれへんね?」
彼女は一歩も前に進めなかったのだ。
「コラー、待たんか〜い! ナァ、待って〜な〜!」
作品名:ワインカラーのラプソディ 作家名:おやまのポンポコリン