ワインカラーのラプソディ
そう言いながら三田村が、母屋の方に向かって手招きをすると、中から若者二人が、はにかみながら現れた。
「どうも、ボート転落事故の門脇です」
「誤って車ごと峯山湖に転落した、元ローリング族の宮下です」
二人とも、とびきりのイケメンだった。
「住む! ウチ、ここに住む〜!」
弓枝の顔に笑顔がもどった。
「フム、これでよし……」
田代が三田村と顔を合わせて満足げに言った。
「だが、あの男はどうする。すておくのか?」
三田村が言ったあの男とは、弓枝を殺した中川の事だ。
幽霊には自分を殺した相手が生きている限り、呪い続けねばならないというやっかいな掟があるのだ。
弓枝を本来の死期が来るまで、ここで平和に暮らさせる為には、中川という存在が消えなければならない。
とはいえ、霊力の弱い弓枝にはどうにもできない話だったのだ。
「なあに、あの娘に代わってワシが呪い玉を、車に張り付けておいてやったわい」
田代がカッカッカッと笑った。
「なるほど、それならば今頃は……」
三田村もまた愉快そうに笑った。
その中川は、峯山湖から数キロ離れた谷底にいた。
ようやく大破した車から這い出てきた中川は、目の前で押しつぶされている自分の死体を見下ろしながら途方に暮れていた。
「オーイ、誰か……誰かいないのか〜!」
だが、あたりには獣の気配すらなかった。
「オーイ、誰か、助けてくれー!」
中川は天を見上げた。
ぽっかりと浮かんだ青い月が彼を見下ろしているだけだった。
―――― 了 ――――
作品名:ワインカラーのラプソディ 作家名:おやまのポンポコリン