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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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ワインカラーのラプソディ

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 春・夏はハイカー達でにぎわう峯山湖も、晩秋のこの季節はさすがに訪れる者も少なく、まして夕暮れともなれば通り過ぎる車も殆どなかった。
 そんな中、一台のセダンがまるで交差する対向車を避けるかの様に、道路脇の少しだけ開けた草地に停車した。
 
 この場所から先は崖になっており、ダム湖である峯山湖全体を見渡せる。
 季節がよければ若い恋人達がブログに載せる写真を撮りまくるスポットである。
 
 だが今、車から降りてきたのは疲れ切った表情をした中年の男一人だけだった。
 中川というその男、辺りをキョロキョロと神経質そうに見渡た後、車のトランクを開け、中から毛布で包まれた重そうな荷物を取り出した。
 
 「ワルう思うなよ弓枝……」
 中川は毛布を少し開き、その中の物に語りかけた。
 それは血の気の失せた、もはや死人と思える女性だった。が……。
 「うう〜ん……」
 すでに死んでいると思われた弓枝が息を取り戻したのだった。
 
 中川は明らかに狼狽した様子で、弓枝の首を絞め、今度こそは完ぺきに命を奪い取った。
 急ぎ、車から引きずり出して、そのまま彼女の死体を峯山湖へとつながる崖の方へ引きずって行った。
 
 「よし、これでいい。後はこの湖の中で永遠の眠りについてもらおう……」
 中川にとって、若干予期せぬ事態が起こったものの、計画はほぼ予定通りだった。
 だが、その引きずられて行く死体から弓枝の霊体がズルリと抜け落ちたのを彼が知るよしもなかった。
 「痛たっ……」
  自分の亡骸から抜け落ちた霊体の弓枝は地面から突き出た石に頭をぶつけ、悲鳴を上げた。
 
 起き上った弓枝が見たものは彼女の亡骸に話しかけている中川の姿だった。
 「許せ、弓枝。おれも殺しとうはなかったんや」
 そう言いながら中川は、弓枝の死体をロープで縛りつけた。
 「けど、40を前にして絶好の縁談が舞い込んできたんや。相手は会長の姪ごさんやで」
 
 弓枝は唖然としてその場にへたりこみ、中川の顔をのぞき見た。
 
 「それを今さら、若い内縁の妻がおりますねなんて言われへんやろ……」
 心なしか中川は笑っていた。
 
 聞いているうちに弓枝の中に沸々とした怒りが込み上げてきた。
 「あんた、ようそんな事を……」