Estate.
Date 7/31
夏空。
入道雲、突然の大雨。
波の音が、耳に優しかった。
温い雨が海面に溶ける様を、二人、ただ見つめていた。
サキと暮らし始めて、気づけば一月が過ぎていた。
「雨、降ってきちゃったねえ」
「ン。でも、夕立だろ?」
「多分。この季節だし、仕方ないんだけどさ」
サキが苦笑いを向けてきた。
海の上の雲は真っ黒で、微かに雷鳴が聞こえる。
「失敗したー。近所だからって、油断した」
「ああ。でも、コレだけ暑けりゃ風邪ひくこともないだろ。夕立なら雨もすぐ上がるよ」
ひとつ頷く。
沈黙が下りる。
決してそれは、気まずい沈黙ではなかった。
雨音。
微かな雷鳴。
波。
不思議と静かな空気の中、俺たちは、どちらも口を開くことなく黙っていた。
「ねえ、真宏」
「ん?」
「嫌だったらこたえなくていい。でも、聞いて良い?」
「何?」
「真宏は、あの家を借りるときの条件として、“静かで海のそばで1人きりになれる場所”って、言ったんだよね?」
「ああ」
「……一人きりになれる場所、っていう条件、俺、ちょっと気になった」
その話か、と少しだけ俺は笑った。
「それは何?俺が1人になりたいっていった理由が、聞きたいの」
「……嫌じゃないなら」
「別に嫌じゃないよ。……そうだなぁ。……ひとりじゃないんだってことを、知りたかったのかもな」
あまり考えずに口に出した言葉だった。だが、それは言葉にしてから、突然はっきりした形を持った。
「ひとり、?」
「そう。サキは変っていうかもしれないけどね。街中に居るとさ。時々、どうしようもなく孤独になることがあるんだよ」
「……それは、家族や友達と居ても?」
「ン。家族も友達も、すごく大事だけどね。そういうのとは全然別のところで、どうしようもなく孤独を感じることがあるんだよな、不思議と。だから、本当に一人きりになったら、感じなくなるかなーって思ったんだ、多分」
本当に一人きりになれば、“独り”ではないと、気づけるかもしれないと。どこかそんな風に思っていたのだと気づいた。
「なら、俺は邪魔だったんじゃない?」
思わず笑った。
俺がサキの立場だったとしても、同じ質問をぶつけていただろう。
「信じるかどうかはサキの自由だけどさ。俺はお前の事を邪魔だとか思ったことは一度もないよ」
「本当?」
「ここで嘘を吐いたりはしない。もっと言えば、ここで嘘ついても俺にメリットないでしょ」
「ン。確かに」
子供のようで、そうではないサキ。
他にも言い様はあっただろうに、わざと“メリット”などという言葉を選んだのは、それを確かめたかったからかもしれない。
「……そう。でも、そっかあ」
「ン?」
「独りになりたいって思うほどの孤独を、俺は知らないから。真宏は、……それを知ってるんだね」
ふと、サキは目線を遠くへ放った。
雨が上がりかけた空。
少し遠くで、まだ雷鳴が響いていた。