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本庄ましろ(公夏)
本庄ましろ(公夏)
novelistID. 5727
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Estate.

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Date 7/20


『真宏。ちょっと来てー。』
 いつものように机に向かっていると、玄関の方からサキの声が聞こえた。
 買い物に行っていたサキが戻ってきたようだ。
 その声はとくに切羽詰っている風ではなかったけれど、わざわざサキがその位置から俺を呼ぶのは珍しい。不思議に思いながら、俺はゆっくり腰を上げた。
 今日で、サキとの共同生活は二十日目。
「……アラ」
 そんな反応をした俺に、サキはしてやったり、という顔をした。
「夏だからね」
「……重い?それ」
「見たままの重さだと思ってくれれば」
「つまり重いんだな」
「そういうこと」
 サキの腕の中にあるのは、立派な大きさの西瓜。なかなか重そうだった。
「西瓜割りしよう」
「……はい?」
「庭で西瓜割りしようよ。ね?」
 サキは楽しそうだ。
 つまり、サキが俺を呼んだのは、このまま外で西瓜割をする気だったから、ということらしい。
「……いい年の大人が何言いくさってンの」
「だってさー、夏の風物詩でしょ?西瓜割り」
「そうだけどさ。俺達二人で西瓜割りしてる図ってものすごくシュールなんですが?」
 そう言ったら、その図を頭の中に描いてしまったのかなんなのか、サキが苦笑いを浮かべた。
「……確かに」
「西瓜割りは大人数でやるから楽しいんだろ。それも若い頃」
「真宏さー。若い頃とかいうー?すごいジジイになった気がするんだけど、そういう言い方聞くと」
「事実。……ってわけで、西瓜割りは却下」
「……ふつうに食べてもあんまり楽しくないじゃん」
 ぷく、と頬を膨らませる、サキ。
 子供のような所作。何もそんなところで子供にならなくてもいいだろうに。
「確か冷蔵庫にソーダあったよな?」
「は?」
「いいから。あったよな?」
「……うん、確か、この前真宏がリクエストした三ツ矢サイダーが残ってた気がするけど
「ゼラチンは?」
「あー、あるような気がする」
「ヨシ。西瓜割り却下しちゃったからね。ちょっとだけ俺が腕振るいましょ」
 サキが目を丸くする。普段、台所はサキに任せきりだ。
「西瓜、貸して?」
 まだ目を丸くしたままのサキから西瓜を受け取り、俺は台所に向かった。
 玄関を閉めたサキが追ってくる。
「真宏何作るの」
「西瓜とサイダーのゼリー」
「へー。夏っぽくていいね。作り方教えといてよ」
「見てれば?」
「あ、じゃぁ手伝う」
 サキは、パタパタと台所の中を動き回り、使いそうな材料や器具を引っ張り出している。
 こんなことをするのはいつ振りだろうか。西瓜割りなど若い頃でなければ、とは言ったが、こうして一緒に料理に勤しむのも、十分に若い頃だから楽しいことなのかもしれない。
 俺は思わず笑いをこぼした。
「何笑ってンの、真宏」
「や、別に」
「やーらしー」
「サキさんの思考回路を覗かせて頂きたいんですけどちょっと何今の発言?」
「うははは、真宏のスケベー」
「……スケベ呼ばわりかっ」
 楽しそうにサキは笑った。
 この西瓜、切っていいの、と笑いながら言ったサキに頷くと、サキは嬉しそうに西瓜に包丁を入れた。
 瑞々しい、赤い果肉が現れる。
 どこか懐かしい、夏の光景。

 夏の香りが、鼻をくすぐった。
作品名:Estate. 作家名:本庄ましろ(公夏)