大陸戦線異聞
「家族の写真か?」
男がそう言いながらコックピットの計器の上に貼り付けられた少女の写真に目をやると、女はあからさまに不快な表情を浮かべた。
「コックピットへは立ち入り禁止。次に入ったら雲の上からでも突き落とすわよ」
「了解」
男はわざとらしく肩をすくめ見せ、すごすごと客室という名の貨物室に入っていった。そこは人一人が横たわるのが精一杯の広さで、壁も天井も床も塗装が剥がれた物々しい金属板に覆われ、すぐ近くではエンジンのけたたましい駆動音が鳴り続けていた。
「一等客席、てか」
男は自嘲気味につぶやくと、バッグを床に放り投げ、それを枕代わりにごろりと寝転がった。エンジンの熱のせいか、床はほんのりと温かかった。
「管制塔からの離陸許可が出たわ。後数分で離陸。航路上の天候は極めて良好。グリフォニア空港への到着予定は、大体5時間後ね。それまでそこで大人しくしてて」
頭上のスピーカーから女の声が響いたが、男は既に熟睡モードに入っていた。