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大陸戦線異聞

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倉庫の裏手にあるプレハブの中はエアコンなど効いておらず、外よりも蒸し暑く感じられたが、女は気にも留めずにソファに座り込んだ。

「で、何を運ぶの?」
「これだ」

男は立ったまま、彼女の前に置いてある応接台に数枚からなる書類を放った。

「・・・あんた、機兵乗り?」
「ああ」

機兵とは大陸中央の戦線で投入されている人型の兵器である。大きさは千差万別だが、書類に記載されてある性能諸元には15ローム(約8メートル)とあった。

「この界隈で、こいつをバラさずに運べるアトラース型を持ってるのはおたくだけだと聞いたんでね」
「アトラースIIIよ」
「それは失敬」

女は書類に目を通しながら男に尋ねた。

「他に運ぶ物は?」
「こいつの兵装と弾薬と俺。そして俺の私物が若干」
「あまり大きな物は入らないわよ」
「前者は最後のページに。後者は人間一人とスーツケース一つ分」

男がそう言うと、女はさっさと最後のページをめくった。

「追加で載せられるのは残り450レント(約2.4トン)。残りは他に頼んで」
「仕方がないな」
「で、何を積むの?」
「主砲・・・ああその、リストの一番上の『マルチプル・フェーズド・アームランチャー』という奴だ」
「これだけで420レントあるわ。後はあなたと手荷物で終わりね」
「ああ。残りは余所をあたろう」
「出発はいつをご希望?言っておくけど、アトラースの整備が終わるのは早くても明日の午前中よ」
「整備が終わり次第頼む」
「じゃあ明日、昼食とったらすぐ荷物の積み込みを開始するから、荷物はそれまでにうちに届けて頂戴」
「既に空港の中に置いてある。契約が済んだらすぐにでもこっちに持ってこさせる」
「150万カース貰うわ。びた一文まからないわよ」
「手付けで200万出す。到着地でさらに50万」

相場の3倍をふっかけたつもりが、不意を突かれて初めて女は男の顔を見た。

「手を抜いて貰っちゃ困るんでね」
「・・・肝心の行き先を聞いてなかったわ」
「海の向こう、西都グリフォニア」
「あんな所へ、何をしに?」
「それはこれからの仕事に必要な質問か?それともあんた個人の好奇心か?」

目を合わせたまま黙る女に、さらに男は言い放った。

「戦争屋の機兵乗りが商売道具抱えて行き先で何をするかなんて、説明するまでもないだろう?」

女は僅かに表情を歪ませると、書類を応接台に叩き付け、背後の戸棚から契約書を取り出して男に突きつけた。

「明日の荷物の積み込みまでに署名して持ってきて。200万カースの現ナマと一緒にね!」
「分かった。ではまた明日」

男は床に散らばった機兵の書類を拾い集め、プレハブから静かに立ち去った。
作品名:大陸戦線異聞 作家名:橘健兵衛