大陸戦線異聞
夏季真っ盛りの大陸東端の街は、今日もうだるような暑さだった。
「誰か居ないのか」
男は空港の片隅にある巨大な格納庫の入り口で声を張り上げた。男の正面には、民間で飛ばせる輸送機の中で最も大きな「アトラース型」が、正面搬入口を開いたまま薄暗い中鎮座していた。その様子はまさに、洞窟の中で眠る巨大な怪物といったたたずまいである。
「ちっ」
男は舌打ちをしながら額の汗を袖でぬぐい取った。そして倉庫の中へと無遠慮に足を踏み入れた。もしかしたら、滑走路を這う飛行機のエンジン音に自分の声がかき消され、中にいる者の耳に届いていないかも知れないと思ったからだ。
「誰!?」
倉庫に数歩足を踏み入れた時、男の背後で声が聞こえた。男はゆっくりと振り向きながら、
「ヘルメース・トランスポート社の格納庫はここか?」
男は背後の女に尋ねた。彼女は飛行機乗り特有のツナギを着込んでいたが、上半身部分は腰に巻き付けられ、モスグリーンのタンクトップはあちこちが油で汚れていた。髪は後ろ手に一つに乱暴に縛られていた。
「そうだけど、何か用?」
「運んで欲しい物があるんだが」
「事務所は裏よ」
「行ったが誰も居なかった」
「そう」
女はそう言うと、くわえていたタバコを踏みつぶして事務所の方へと歩き始めた。男は黙って女の背後を追った。
「誰か居ないのか」
男は空港の片隅にある巨大な格納庫の入り口で声を張り上げた。男の正面には、民間で飛ばせる輸送機の中で最も大きな「アトラース型」が、正面搬入口を開いたまま薄暗い中鎮座していた。その様子はまさに、洞窟の中で眠る巨大な怪物といったたたずまいである。
「ちっ」
男は舌打ちをしながら額の汗を袖でぬぐい取った。そして倉庫の中へと無遠慮に足を踏み入れた。もしかしたら、滑走路を這う飛行機のエンジン音に自分の声がかき消され、中にいる者の耳に届いていないかも知れないと思ったからだ。
「誰!?」
倉庫に数歩足を踏み入れた時、男の背後で声が聞こえた。男はゆっくりと振り向きながら、
「ヘルメース・トランスポート社の格納庫はここか?」
男は背後の女に尋ねた。彼女は飛行機乗り特有のツナギを着込んでいたが、上半身部分は腰に巻き付けられ、モスグリーンのタンクトップはあちこちが油で汚れていた。髪は後ろ手に一つに乱暴に縛られていた。
「そうだけど、何か用?」
「運んで欲しい物があるんだが」
「事務所は裏よ」
「行ったが誰も居なかった」
「そう」
女はそう言うと、くわえていたタバコを踏みつぶして事務所の方へと歩き始めた。男は黙って女の背後を追った。