大陸戦線異聞
グリフォニア空港に夜の帳が降りようとしていた。予定時刻よりも大幅に遅れた到着だった。
旅客機は満身創痍ながらも滑走路に無事着陸し、待ち構えていた救急隊によって次々と乗客達が運び出されていく。輸送機もしばらく上空を旋回した後で別の滑走路に降りた。
機兵は勢い余って空港の敷地外の空き地に仰向けの状態で不時着。男はコックピットから這い出ると地面に降りずそのまま機兵の肩によじ登り、頭部パーツの上に腰掛けタバコを吹かしながら旅客機の様子を眺めていた。
「解せねえな」
男は考えていた。
シンセミアはかつて何度となくサイレントラインに侵攻を阻まれてきた。統合政府の領域に入り込めば、たやすく撃ち落とされる事は百も承知の筈である。
さらに不可解なのは統合政府の対応だ。いくらステルス性に優れたパラサイト・シップとはいえ、戦闘機を随伴させて侵入してきた未確認機をあんな所まで見過ごすとは考えにくい。あの空域はピースシティーやグリフォニアといった大都市の上空まで目と鼻の先の位置である。もしこれが爆撃機だったら、どちらかの都市に甚大な被害が及んでいただろう。
「まるで両勢力が示し合わせたかのような・・・いや、まさかな・・・」
そして頭部パーツから角のように伸びるアンテナを背もたれ代わりによりかかり、夜空を見上げた。
----もしかして俺は、とんでもない陰謀に首を突っ込んでしまったのかも知れない・・・
「あ、見つけた!お姉ちゃん!あそこ!」
聞き慣れた声が近づいてきた。ほんの数時間の付き合いだったが、まるで何年もコンビを組んでいたかのような錯覚を男は感じていた。フィオナが草むらをかき分けて駆け寄ってくるのが見えた。女も後から歩いて来ていた。
「あ、あの・・・!」
「ああ、お疲れさん」
フィオナからは、胴体ユニットの隙間から男の手だけがひらひらと動くのが見えた。
「ちょっと!降りてきたらどうなの!?」
女が両手を腰に当てて怒鳴った。男はやれやれといった表情を滲ませ、機体の各所にある取っ手や凹凸を器用に使いこなしながらのろのろと機兵から降り始める。
「あ、えっと、その、あ、ありがとうございました!」
そう言いながらフィオナがぺこりと頭を下げた。フィオナの思った以上に小柄、いや若い容姿に男は少々意外な印象を受けた。
「輸送費チャラの報酬目当てにやっただけだ」
「でも、私たちを助けてくれました。本当に・・・本当にありがとうございますっ!」
男は慣れない空気に後頭部をかきむしった。
「ねえ、あの時・・・」
女が割り込んだ。
「ああ、訊きたいことは分かってる。パラサイト・シップと戦闘機を撃ち落とした『あれ』だろ?」
「あ、それ私も訊きたかったです!いつの間にかシンセミアの飛行機がいなくなってて、でもあれから何も答えてくれませんでしたよね」
「無線ではちょっとな。他言無用を誓ってくれるのなら教えてもいいが・・・」
「はい!誰にも言いません!」
「で、一体何だったの?」
「・・・統合政府が運用している秘密兵器って奴さ」