大陸戦線異聞
サイレントライン。
統合政府が勢力圏内の上空、静止衛星軌道上に配備している対地攻撃衛星である。圏内に侵入してきた敵勢力を、成層圏の上から超音速のレールガンで撃破する、いわゆる「物言わぬ境界線」。
開戦直後には第一号が打ち上げられ、今現在十基以上が統合政府圏の空全体で目を見張らせている。
「そんな兵器が・・・」
「軍属でそれなりに情報に明るい奴らにはそこそこ知られてる話だが、一応『秘密兵器』なんでね。まあ、俺も実際にあれの攻撃を間近で見るのは初めてだったんだが」
「ちょ、ちょっと待って。それじゃあ・・・」
「質問タイムは終わりだ。本来は民間人に教えちゃいけない情報を大サービスで教えてやったんだ。もう十分だろう?」
そう言って男は女の質問を遮った。
「さて、良い頃合いだ。そろそろ別れるとしようか」
「えっ?」
「新聞屋が嗅ぎつけると色々厄介な事になるんでな」
「・・・そうね」
「お、お姉ちゃんも?」
「フィオナ、あなた自分が今帰省中なのを忘れてるでしょ」
「・・・あ!」
「ふん、帰りは姉貴の輸送機だな」
「ええ、またチケットを予約し直すよりよっぽど早いわ」
「せいぜい、あの客室の座り心地を堪能するこったな」
「何それ皮肉?」
女がにやりと口元に笑みを浮かべながら突っかかる。
「ふん、そう聞こえたんならそうなんだろうよ」
「おあいにく様。フィオナは操縦室に座らせます」
「ちっ」
男は本気の舌打ちをした。
「え、じゃあアトラースの操縦させてくれるの?」
「ライセンスを持ってない人に私のアトラースIIIの操縦桿は指一本触れさせません!」
「ケチい!」
「そう姉貴を困らせるなよ。お前ならすぐにパイロットになれるさ」
その言葉にフィオナの表情が輝いた。
「ほ、本当ですか!?」
「待ちなさい」
女がフィオナの耳をつまみ上げた。
「い、痛い痛い!お姉ちゃん!?」
「まあ、いいパイロットになりたければ、姉貴の言う事もしっかり聞くんだな」
男は苦笑した。