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大陸戦線異聞

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パラサイト・シップからノイズ混じりの無線が飛び込んで来た。

『旅客機へ告ぐ。見たところエンジンに不調を来しているとお見受けする。当機には飛行能力を失った航空機を安全に牽引する能力があり、貴機の航行を支援する用意がある。もし当機の支援を求めるのであれば応答せよ』

「物は言い様だな」

男は苦笑した。
パラサイト・シップは既に旅客機の真後ろ、今にも接触しようかという至近距離を飛んでおり、さらにその後ろを周囲にはシンセミアの大型戦闘機が四機、随伴していた。

----ちっ、やはり護衛機付きか

男は舌打ちした。制空権が確保されていない敵の勢力圏のど真ん中を飛ぶ以上当然といえば当然の対応ではあるのだが、その手際の良さが今の男には腹立たしかった。

「ど、どうしましょう!?」

秘匿回線でフィオナが男に助言を求めてきた。

「悪いが今の俺には何も出来ん。なるべく時間を稼ぐ事だ」
「う・・・わ、分かりました」

パラサイト・シップからの二度目の通信が入ってきた。

『旅客機へ告ぐ。こちらの呼びかけに応答する事を要求する。万が一沈黙をこれ以上維持するのであれば、我々は貴機が非常事態にあると見なし強制的に牽引する事を予告する』

「フィオナ、俺がいいと言うまでシカトだ」
「りょ、了解!」
「ちょ、ちょっと!助けてくれるってあいつら言ってるんじゃないの!?」
「あいつら特有の言い回しだ。あと二、三回ほど呼びかけてくる。それまではあいつらは何もしてこない」

『旅客機へ告ぐ。万が一通信機器の故障であるならば、フラッシュ信号による通信も許可する。フラッシュ信号機材を搭載していないのであれば、翼を上下に交互に揺らせ』

「そろそろかね」

『旅客機へ告ぐ。当機は貴機に重大な事態が発生したとみなし、これより貴機の牽引を開始する。ついては、貴機を牽引している機兵にケーブルを切断するよう要求する』

「・・・よしフィオナ、無線繋げ」
「はい!」

フィオナはパネルを操作し、男からの秘匿無線をそのままパラサイト・シップへ中継させた。これで、男が旅客機の操縦室から返答しているかのように偽装する事が出来る。

『あー、私はこの旅客機の機長である。どうぞー』
『旅客機機長へ告ぐ。今まで沈黙を守り続けた理由はもう問わない。我々の指示に従うかどうかの意志表示を求む』
『あー、その、無線の調子がおかしくなってしまった。だからあんたらの言ってる事がよく聞こえん。どうぞー』

僅かな沈黙の後、シップ側が呼びかけてきた。旅客機ではなく、機兵にだった。

『旅客機を牽引している機兵に告ぐ。これより旅客機の牽引作業を開始する。ついては貴機のワイヤーを切断せよ』

----さて、どうしたものか・・・

男は無線機を口に近づけた。

『こちらIGGF(統合政府陸軍)外戦機兵大隊、第501機動対戦車中隊所属、コードXA26483。貴機の所属を回答されたし』
『・・・XA26483、こちら空軍・・・』
『"空軍"とは、IGAF(統合政府空軍)か?どこの飛行隊所属だ?』
『・・・』

今度はシップ側が沈黙した。それとほぼ同時に、機兵コックピットのディスプレイが点滅していた。
作品名:大陸戦線異聞 作家名:橘健兵衛