小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

大陸戦線異聞

INDEX|14ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

レッドアラート。

「やっぱり来やがったか!」

男は毒づいた。正体不明の移動体が複数、高速でこちらに接近している事をコックピットのサブディスプレイが知らせていた。
そうなのだ。この空域で旅客機をハイジャックしたところで、仮に燃料が満タンだったとしても統合政府の勢力圏から出る事は出来ない。統合政府の勢力圏内のどこかに着陸し、同時に身柄を拘束されるのが「オチ」だ。ハイジャック犯達は何のためにこの空域で、このタイミングで旅客機を占拠したのか。

「最悪のタイミングで現れやがった・・・!」

地平線の果てに豆粒のような黒い点がいくつか見えていた。

「おい、二人とも北を見ろ!」
「え、何?」
「厄介なのが現れた。シンセミアのパラサイト・シップだ」
「パラサイト・シップ?」
「輸送機や旅客機に張り付いて乗っ取るために作られた軍用機だ。多分ハイジャック犯達の目的はアレに旅客機を乗っ取らせるためだったんだろう」
「う、うそでしょ!?だってここはシンセミア圏からかなり離れて…」
「この空域に現れたという話は聞いたことがないが、元々がステルス性能も優れた機体だからな」
「あ、あの、あれに乗っ取られたら、どうなるんですか?」
「パラサイト・シップは標的の飛行機に上から覆い被さるように接近し、標的の主翼と胴体にアンカーを撃ち込んで固定してくる。その後チューブを降ろして標的の機体の天井に穴を開けて、そこから兵士が乗り込むという寸法だ」
「そ、そしたら私たち、どうなっちゃうんでしょうか?」
「多くの場合は乗客は人質として連れ去られるが、おそらく全員とは限らんだろう。必要な分だけ人質を本船に連行したら、残りの乗客を置いたままアンカーを外して旅客機を『投棄』するはずだ」
「ひえええ」

パラサイト・シップは、大戦中期から出没し始めたシンセミアの鹵獲兵器である。海賊船や潜水艦による商船への無差別攻撃に対応すべく、統合政府の物流の多くが空輸に移行し始めた頃に登場したと言われている。
標的となる飛行機を恫喝するための武装も充実しており、ちょっとした「空の要塞」と言っても過言ではない。

「で、どうすんのよ?」

成り行きを黙って聞いていた女が男に問いかける。

「最後まで付き合うさ」

男は応えた。

「どうだか・・・。このまま旅客機を捨てれば、あんたは取り敢えず助かるでしょ?」
「この距離なら向こうもこっちを捕捉してるはずだ。だから今ここで俺だけ逃げ出しても追い回されるのは確実だろう。いくら機兵でも航空機の追跡を振り払えるような性能は無いよ」
「でも、このままだと旅客機は乗っ取られちゃうんでしょ?どうするの?」
「たった今、長距離帯域で緊急信号を発信した。運良く近くを統合政府空軍の飛行隊でも通っていれば、あるいは・・・」
「機兵で応戦出来ないの?」
「主兵装は旅客機を引っ張り上げるのに使ってしまってるからな。使えたとしても弾薬は全て抜いてあるし、副兵装も重量を減らすため全て外してある」
「・・・要するに打つ手無しって事ね」
「まあ、そういう事だ」
作品名:大陸戦線異聞 作家名:橘健兵衛