君の夢買います
「べ〜つにぃ。さっきぼくのほうを見てたみたいだから、用があるのかと思って」
「ふん。気のせいだろ。ぼくはきみなんか見ちゃいないよ」
「そう? ユウジの話にも興味あるみたいだったけど」
「うるさいな。くだらないよ。夢なんか見ても見なくても関係ないよ」
カズマは怒って教室から出て行った。その時はらりと何かが落ちた。
「あれ?」
拾ってみると、あのチラシだった。
(あいつももらったのか……)
ぼくはチラシをカズマの机のなかに押し込むと自分の席に戻った。
「しょうがないなあ、今度博士にたのんでみるよ」
ユウジの明るい声が教室にひびいた。
それから一週間ほどすると、ユウジとフユキがずいぶんつかれたような顔をしているのがぼくは気になった。
そればかりか、他のサッカー部員も何人かいっしょにいったらしく、土曜日に休んだばかりか、日曜日にはようすが変になっていた。
ぼんやりして遠くのほうばかりを見ている。寝ぼけているみたいな。とにかく集中力がないんだ。
そして次の土曜日になると、人数は増えて、とうとう八人が練習を休んだ。やっぱりみんなあの風呂糸博士のところにいったようだ。
ユウジの家に行くと、一週間分の夢を売って、七百円もらったと言って喜んでいた。
「なあおまえ、このごろへんじゃないか?」
「なにが? ちっとも。それよりケンもいっしょに行こうよ。ほら、おまえの枕ももらってきたんだよ」
「ええ?」
ユウジは新しい枕をぼくに見せた。
「博士がさ、ケンにもって」
「いいよ、ぼくは」
「まあ、そういわずにさ。この枕すごく寝心地がいいんだぜ」
けっきょく、ユウジには強く言えないまま、枕を持って家に帰った。
「あら、何それ。ちょっと見せて」
めざとい姉ちゃんが枕を見るなり、ぼくの手からひったくった。
「かわいいじゃん。これ、バクの形なのね。赤ちゃんの枕?」
「ちがうよ。夢を録画する枕さ」
「ええ? うっそー」
ねえちゃんはげらげら笑った。
「でも、面白いかもね。夢って忘れちゃうこともあるから、録画できたらどんな夢かわかって、占いができるわ」
ちぇ、けっきょく占いかよ。
「いいからかえしてよ。インチキに決まってるから、明日返しに行くんだよ」
「ふうん」