君の夢買います
それどころか、もらった覚えもない。あのときおじさんがチラシを手渡そうとしたのを振り切ってきたのだから、ランドセルに入っているなんてへんだ。
ぼくは急いで部屋の窓から、ユウジの家の窓に声をかけた。
「なに? ケン」
ユウジはすぐに顔を出した。
「ランドセルあけてみて……」
ユウジはけげんな顔をして自分のランドセルを見に行った。
「ケ、ケン。これが」
ユウジは手にチラシを持って、あわててもどってきた。
「やっぱり」
「どうする? ケン」
「きみが悪いから、破って捨てよう」
「うん。わかった」
その場でぼくがチラシを破ると、ユウジはホッとしたようだった。
次の日、あのはりがみは公園の街灯の柱にはなかった。そして、学校帰りにぼくたちは用心しながら公園のそばを通った。でも、ヘンなおじさんは現われなかった。
「きっと、だれも相手にしないってわかったから、どっかいっちゃったんだね」
ぼくたちはとりあえず安心した。
ところが金曜日。ぼくとユウジは昼休みにとなりのクラスのやつに呼び出された。
「なあ、ケン。緑公園って、おまえんちの近くだったよな」
フユキだ。やっぱり同じサッカー部の仲間だけど、すんでいる地区がちがう。
「昨日さ、へんなおじさんにこんなのもらったんだ」
あのチラシだった。真っ赤な紙に真っ黒な文字。『きみの夢、買います』
「昨日はいないと思ったら、おまえんちのほうにいってたのか」
「え? しってるのか? ケン。ユウジも」
「うん」
「なら、話が早いや。昨日の夕方、声かけられてさ。土曜日に緑公園にこいって」
「ぼくらは無視したよ。な、ユウジ」
「ああ、どうせインチキさ」
ユウジもうなずいた。
「うーん。そうかもね。でも、オレいってみようかと思って。おもしろそうじゃん」
「ええ?」
「おまえ達といっしょに行こうかと思ったんだけど、そうか、行かないのか」
フユキはチラシをぴらぴらさせながら、背中を向けた。
ぼくたちもフユキのように手渡しでもらったのなら、好奇心で行く気になったかもしれない。でも……。
「夢を売って、お金もらえるならいいアルバイトになると思うんだけどなぁ」