君の夢買います
なんか、うさんくさいなあ。ぼくたちが首をひねると、そのおじさんはぺらぺらとしゃべり出した。
「夢は見る人の心理状態を表わすといわれていますが、どんな夢が人に力を与え、どんな夢がなくすのか。それを調べることで、人に力を与える夢を見させる方法を考えているのです。日本ではまだこの風呂糸博士しかやっていません。あ、わたしは一の弟子、湯運具(ゆんぐ)ともうします。以後、お見知りおきを」
「でも、ぼくは夢なんかみないから、お役に立てそうもないですよ。ユウジ、いこう!」
ぼくはおじさんに背を向けて、さっさと歩き出した。
「お、おい、まってよ。ケン」
ユウジは小走りについてきた。ぼくたちの背中に向かって、おじさんが叫んだ。
「夢は必ずみているものですよ。土曜日の朝七時、ここに来て下さい。待ってますよ」
その声をふり切るように、ぼくとユウジは家まで一気に走った。
「ほんとかなあ」
それぞれ自分の家の玄関に入ろうとした時、ユウジが言った。
「なんだよ。あんなこと信じるのか? 夢を録画するなんて」
「面白そうじゃん。それに夢を買ってくれるんだろ。おこづかいになるし」
「ちぇ、そっちかよ。ゲンキンだな」
ちょっと前までこわがっていたくせに、もう興味しんしんだ。
「土曜日は朝から練習。来月の試合まで気を抜けないんだぜ。六年は最後の試合だし」
ユウジは「わかったよ」というと家に入った。
うちには、姉ちゃんが一人でいた。ぼくの姉ちゃんは中学二年。占い好きでなんにでも首をつっこみたがる物好きな性格だ。今の話なんかしたら、絶対おもしろがるだろうな。
「今日はお母さん、残業なんだって。お父さんも遅いらしいわ。私は先に食べたわよ」
ぼくがおかずのトンカツをチンしている間に、ねえちゃんはご飯をよそってくれた。
おさらには千切りというより乱切りに近いキャベツが山盛りだ。
トンカツはお母さんが作っておいてくれたものだけど、キャベツは姉ちゃんが切ったにちがいない。悪いけど、半分の量にさせてもらった。
姉ちゃんは自分の食べた食器をさっさか洗うと、リビングに行ってテレビをつけた。
軽快な音楽が聞こえてきた。聞き覚えのあるその音楽は、大好きなアニメのオープニング。そうだ。うっかりしてた。ぼくはご飯やおかずをもって、リビングに行った。