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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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君の夢買います

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 その日はずいぶん練習に熱が入って、いつもより校門を出るのがおそくなった。
 大人がよく「秋の日はつるべ落とし」っていうけど、たしかにこのごろは、急に夕方の六時がずいぶん暗く感じるようになった。
 キャプテンのトオルと商店街のはずれの路地でバイバイすると、ぼくとユウジの二人だけになる。ここから先はあまり人通りのない場所で、右側はまだ分じょう中の空き地、左側は木々の茂った公園だ。ぼくらの家はとなり同士、この公園の通りを少し行ったところにある。うす暗い公園の木立を見ながら、恐がりのユウジがいいだした。
「夜になると、このへん気味悪いよね」
 そんなユウジを笑いながら、ぼくは視線をそらして何気なく公園の入口のほうを見た。
「あれ?」
 街灯の柱に赤いものがくっついている。
「なんだよ。ケン」
「うん、あれ、なんだろ」
 近づいてみると、なにかのチラシだとわかった。でも、街灯のあかりの中に浮かび上がっていたのは、『君の夢、買います』という文字だった。真っ赤な紙に黒い文字でそれだけ書いてある。
「うわあ、なんか、やだなあ」
 ぼくの肩ごしにのぞき込んだユウジの声は震えてうわずっている。
 すると、いきなり、後ろから声がした。
「夜、君が見た夢を売ってほしいのです」
「うわ」
 ユウジはすっとんきょうな声を上げて、ぼくの背中にしがみついた。
 ふりむくと、全身黒ずくめでサングラスをかけた小柄なおじさんが立っている。
 街灯の真下にいるので、まるでスポットライトでも当たっているようだ。
「おっと、おどろかしてすみません。あやしいものではありません」
 なんて言ってるけど、十分あやしいよ。ぼくは少しどきどきしながらおじさんに言った。
「で、でも夢って自分にしかわからないものでしょ」
「いえ、それが……わたしの先生が開発した夢を録画する機械があるんですよ。興味があったらお休みの日にきてください」
と、わたされた名刺には、へんてこな名前があった。
「夢学博士 風呂糸軸無運人 夢研究所」
「何? この名前」
「ふろいと・じくむんと、と読みます」
「ぶはっ」
 思わずぼくは吹き出した。
「それに、夢学博士だって?」
「夢研究所?」
 ぼくとユウジは首をかしげた。
「夢のパワーを調べる学問ですよ」
作品名:君の夢買います 作家名:せき あゆみ