君の夢買います
博士の正体があばかれたとたん、ユウジもフユキもその場にたおれこんで、ぐうぐういびきをかいて眠りこけてしまった。
「カズマ。なんでこんなことをしたんだ。おまえ、催眠術が使えるのか?」
トオルにせめられて、カズマはワアワア泣き出した。
「ぼくだって、サッカーやりたかった。マンガだって読みたい。でも、ぼくはいい学校にいかなきゃならないんだ。のんきにサッカーやってるおまえたちが憎らしかった。だから、みんな病気になって、試合に出られなくなればいいって思ったんだ」
その時、黒い服のおじさんが姿を現わした。
「ふん、ドジなやつだ。見やぶられるとは」
「おまえはだれだ。おまえがカズマを操っていたのか」
ぼくはそいつに向かってどなった。そいつは不敵に笑うと、サングラスをはずし、カツラをとった。でも、その姿にぼくもトオルも姉ちゃんも卒倒しそうなくらいおどろいた。
「うわあ」
なんてこった。カズマじゃないか!
「ばれちゃあ仕方がない。おれは消えるぜ。おまえはまたガリ勉で、イヤミで友だちもいないいやなやつにもどるんだな」
カズマに向かって吐き捨てるように言うと、そいつは光の中に消えていった。そのとたん、カズマもユウジたちのようにぐうぐういびきをかいて眠りこけてしまった。
「いったい、どうなっているんだ。あのカズマにそっくりなやつは……」
ぼくたちはしばらくの間、ぼうぜんとたたずんだ。
「あら。なにこれ」
姉ちゃんがそばに落ちていた黒いノートに気づいた。
「あれ? それ……」
ぼくはそのノートがカズマのものだってすぐにわかった。いつも教室で本とそのノートを広げていたから。
中を見ると、びっしりとみんなの名前や住所ばかりか、趣味とか特技、好きな漫画やテレビのこと、いつどんな話をしていたか、なんてことまで書いてあった。
「そうか。だから、ぼくの寝相が悪いことまで知っていたんだ」
「あの子、本当はみんなと仲良くしたかったんじゃない?」
姉ちゃんのことばに、ぼくたちは大きくうなずいた。
「あいつは、きっと、カズマの深層意識が生み出した、もう一人のカズマなんだ」
「しんそういしき? もうひとりの?」
ぼくはおうむがえしに聞き返した。