君の夢買います
「うん。夢は自分でも気づかない心の奥をあらわすこともあるらしいよ。さっき、カズマが泣きながらいったことは本当のことだろうね。自分ができないくやしさが、もう一人のカズマをうみだしちゃったんじゃないかな」
「ドッペルゲンガーね」
カズマの寝顔をみているうちに、なんだかカズマを憎めなくなってきた。
しばらくして、ユウジとフユキが目を覚ました。
「あれ? おれたち、なんでこんな所で」
「トオル、ケン、あ、カズマが寝てる」
ふたりは何が起きたのか全く記憶がなく、しつこくぼくに聞いたけど、ぼくもトオルも笑って答えなかった。
まもなくカズマも目を覚ました。やっぱり自分がもうひとりの自分にあやつられていたことは覚えていないようだ。
「ぼくは忙しいんだ。こんなことしてられない。帰るよ」
相変わらず、かわいげのないことを言う。
「カズマ、今日はサッカー部、休みなんだ。でも、用はすんだからこれから練習するけど、いっしょにやらないか?」
トオルが声をかけると、カズマは仏頂面をしてつぶやいた。
「まあ、今日は土曜日……か。今日の午前中は塾もないし家庭教師も来ないから、少しくらいなら……」
「これからは、気分転換にサッカーしたり、マンガ読んだりしようよ」
カズマの肩をたたくと、ぼくは駆け出した。
「おい、ケン。オレも行く」
ユウジも追いかけてきた。フユキも。
「ほら、ぐずぐずしないの!」
姉ちゃんがカズマを追い立てる。
みんなで走る朝、秋風がほっぺたに気持ちよかった。