君の夢買います
パン!と手を叩く音がきこえて、
「はい。目を開けてください」
と、おじさんの声で目を開けると、白いかべの部屋だった。大きな変わった機械があって、ぼくはめずらしさにきょろきょろと見回した。
「やあ、ようこそ」
正面のドアから白衣を着た、白いひげのおじいさんが出てきた。
「ケンくん。わたしが風呂糸博士です」
いつのまにかおじさんの姿は消えていたけど、ぼくは気にせず、博士にあいさつした。
「よろしくお願いします」
博士は先に、ユウジとフユキの夢を再生して見せてくれた。相変わらず、ユウジはマンガやゲームのキャラクターになりきった夢だ。
フユキの夢はというと、マンガも混ざっているけど、テレビドラマっぽい感じがする。
サッカー部で話していると、いつもドラマの話ばかりだから、影響されるのも仕方がないのかな。
夢は自分の体験とか、こだわってることとか、体験でなくても強く印象に残ったことが出てくるって言うし。
あ、これは姉ちゃんからの受け売りだけど。
「今度はケン君の夢を再生しましょう」
ぼくはドキドキしてきた。本当に夢を録画したのなら姉ちゃんの夢だ。もしかしたら好きな人のことを見ていたらどうしよう。恥ずかしいな。
でも、そんなことより、インチキを証明するんだ。ぼくの夢だなんて言って、ぼくが出てきたら……。
「あれ? おかしいですね」
ぼくの枕は二人の時のように、映像が現われない。横に白と黒の線がはいってチラチラしているだけだ。
「ケンくん」
博士がぎろりとぼくをにらんだ。もしかしてばれた?
博士に詰め寄られて、ぼくは額に汗がにじんできた。どうしよう、あやまった方がいいんだろうか。
「きみはねぞうが悪いんですね」
「え?」
「これはちゃんと枕に頭が当たっていなかったのですよ。そうでないとスイッチが入らず、夢も録画されないのです」
本当のことを白状せずにすんでほっとしたけど、同時に姉ちゃんがものすごくねぞうが悪いことを思い出して、吹き出してしまった。
「そうだ、ケンはねぞうが悪いんだ」
ユウジが笑い出した。たしかに姉ちゃんだけじゃない。ぼくも毎朝ベッドから落ちてるか、逆さまになってる。枕に頭が乗っているなんて、ほとんど記憶にない。