小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

VARIANTAS ACT 17 土曜の夜と日曜の朝

INDEX|2ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

 そこに映し出されていたのは、リセッツクロウとガーズマンの攻防。機甲体術同士のぶつかり合いだ。
「敵が…機甲体術を使ってる…?」
「驚いたろ? 私も最初は驚いたよ。ヴァリアントが機甲体術を使ってるのもそうだけど、この二機の戦い方。あんたの言う通り、乗ってる人間も化け物だよ…。この機体、一体誰が乗ってたんだ?」



***************





 彼は後悔していた。
 命令とはいえ、このような場所に来てしまった事を。
 彼にとって、ここに来るよりは戦場にいたほうがマシなのかもしれない。
 こんな…、こんな華やかな場所に来るよりは。 


 ――3時間前…

「誕生パーティー? 私がですか?」
 グラムは思わず、裏返った声でガルスに聞き返していた。
「そうだ。今夜、友人の誕生パーティーがある。それに、私の代わりとして行ってきてほしい」
「お断りします」
「何故だ」
「どうも、あのような場所は肌に合いません。誰か他の者に…」
「他に誰が行く? 元傭兵か? 若い下士官か? 女々しい少年か? じゃじゃ馬娘か?」
「ご自分で行かれてはどうです?」
「…私は行けん。行けんのだ」
「何故?」
「どうしてもだ」
 グラムは大きくため息をついてから、ガルスに問う。
「ご命令とあらば行きますが…」
「なら命令だ」
「…了解しました。で、一体誰の誕生日なんです?」

 三時間後彼は、かの誕生パーティーに出席していた。
 目線を遠くにやる。
 きらびやかな装飾を纏った招待客達は一様にグラスを取り、パーティーホール端のステージへ傾注。
 そこへ、シックで見るからに高価なパーティードレスを着た女性が登場し、彼女自ら乾杯の音頭を取る。
 歓声の上がるホール内。
 ジャーナリスト達のフラッシュが嵐のように瞬き、ステージから降りてきた彼女を途端に取り囲んだ。
「お誕生日おめでとうございます、議員」
「ありがとう」
「議員はサンヘドリン軍政議会を3年間歴任されていますが、今回の新型機導入についてどのようにお考えでしょうか」
「予算の無駄使いね。機体なら現行機の延命近代化で対応出来る…と、私は思っているけど…」
 女性が、グラムに気付く。
「では、近年の…」
「ごめんなさい、それはまた後日…」
 彼女の合図でSP達が記者達を押しのけ、女性はグラムの元へまっすぐ歩いてくる。
 その歩き方は優雅で、胸元の開いたデザインのドレスとも相俟って、上品でありながら非常にセクシーだ。
「失礼。一曲よろしいかしら?」




***************





「ミラーズ? グラム=ミラーズってあのサンヘドリンの?」
 彼女は少し驚いた顔をしてから、すぐに納得した。
 化け物な訳である。あのディカイオスのパイロットであれば。
 しかし、グレンに先輩と慕われるこの女性は、内心焦っていた。
 なによりも、グレンのその態度に。
 一方グレンは、“先輩”そっちのけでモニターの中に没頭している。 
「この敵機…、圧縮空間を使ってる」
「圧縮空間?」
「膨大な空間容積を、見かけ上僅か…本当に僅かな容積まで圧縮して…」
「つまり…あれ? バリアーみたいな物? GRAS…みたいな?」
「そうですね、GRASが硬い装甲で攻撃を弾くのに対し、圧縮空間は分厚い装甲で攻撃を受け止める…みたいな?」
「攻撃が届かないって事?」
「ええ」
「届かない…か…。でも実際このでっかい奴を撃破してる」
「大佐は本能的に、圧縮空間の弱点を悟ったんでしょう。格闘戦…それも敵の攻撃に合わせてのカウンター。相手に触れる場所、つまりヒッティングポイントに圧縮空間は展開できませんから」
「格闘って素手で?」
「その為の機甲体術ですから」
 グレンはさらりと言うが、実際そんなに簡単な問題では無い。
 しかしグレンは、更に言葉を続ける。
「ほら、この敵機の腕を粉砕したパンチ。打撃スピードは…、出ましたね…、遂に第一宇宙速度…」
「んなバカな…」
「そしてトドメの重力波放出…重力レンズまで…。でも、機甲体術にこんな技有ったかな…」
「ねぇ、グレン。あんた事の重大さに気付いてる?」
「え?」
「たった一人の人間が、たった一機の機動装甲で敵の群を撃破…。これはもう政治問題だよ?」
「政治問題…? 何故です?」
 女性は少し間を置いてから、灰皿の中からまだ吸い代の残っているタバコを拾い、指でつまんで伸ばしてから口にくわえ、ライターで火を点けた。
「理由は二つ。まず機動装甲。こんな物が量産されたら世界のミリタリーバランスは目茶苦茶だ。それが例え、サンヘドリンの機体でもな」
「そんな…、サンヘドリンは人類の為に…!」
「軍閥や地方集落はそんなの関係ない。連中にとっちゃサンヘドリンは自分達の持っていない兵器を大量に保有する恐怖の対象」
「…二つ目は?」
「ミラーズ」
「そんな、大佐を怪物みたいに言わないで下さいよ…」
「実際化け物だろ? この戦争が終わったら、彼はどうなる?」
「どうなるって…」
「機密の塊みたいな機体に乗って、戦況をひっくり返す能力が有って、挙げたらキリがない」
「でも! 大佐も先生も、みんなの為に…!」
「リセッツクロウの量産が始まらないのは、政治家の圧力が有ったからでしょ」
「う…」
「人類なんてそんな物。男と女みたいなもん。信頼してるなんて言っても、腹の底の探り合い。それで、その政治家って誰よ?」
「えっと、マリア…」
「まさか、マリア・エバ・ドゥアルテ・デ・ペロン!?」




***************





 二人はパーティーホールのダンスフロアでワルツを踊りながら、お互いの顔を見つめ合った。
 グラムは相変わらず、口を真一文字に閉じて冷めた眼をしているが、マリアは円舞を楽しむように微笑んでいる。
「お久しぶり、大佐。保護法の時以来かしら?」
 グラムの記憶に残っている彼女と照らし合わせても、今の彼女は全く変わっていなかった。
 記憶に残っている限り最も過去に初めて知り合った時、彼女は既に四十だったから、今は四十三…今夜で四十四だ。
 だが彼女は、相変わらずとても四十過ぎには見えない美貌と若さを持っている。
 敏腕の女性政治家で、この容姿。
 メディアがほって置く訳が無かった。
「いえ、対ヴァ法案の時以来です。マリア議員」
「今夜はエステルちゃんを連れてないのね」
「はい」
「これは私にもチャンスが有るって事かしら?」
 マリアが半歩、身体を寄せてくる。
「ねぇ大佐、今夜はケスティウスの使いで来たんでしょ? ケスティウスったら毎年呼んでるのに、一度も来た事無いんだから…」
 グラムは少し驚いた。
 友人であるとは聞いていたが、まさか名前で呼び捨てにする程の仲だったとは。
 彼は話題を変えようと、件の問いをした。
「議員はなぜ、新型機導入に反対を?」
「高い買い物よ? 慎重にならなきゃ」
「導入されれば、老朽し始めた従来機の三分の一を退役できます。運用は延命近代化処置したh2とのハイ・ロー・ミックス。長い目で見れば安上がりな筈です」
「h2の一部退役で、機密機だったh2のプラットフォームがノックダウン生産で解禁されるそうね」